No.238
2001.1


ISASニュース 2001.1 No.238 

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空に気球が飛び交う日々のために

斎 藤 芳 隆


 科学気球はあまり世に知られていないのですが,そんな話は過去のこと。今世紀の気球はメジャー復帰します。なにしろ,気球グループは,素晴らしい気球を開発しつつあるのです。科学気球開発の夢は「より高く,より長く」です。現在,この夢がかないそうな状況になっているのがうれしいところで,この世紀の初頭には,「高度60km程度をずっと飛びつづける気球」が実現します。これができると,世の中では次のようなことができるといわれています。(いや,ほとんど斎藤が考えてみただけの話ですけど。)

1.気象気球ネットワーク

 現在,気象観測は,地上での定点観測と,気象ゾンデ,人工衛星からのモニターに依存しています。しかし,より研究を深めるためには,その現場での気温や湿度といった情報が必要です。というわけで,山ほど(500個くらいの)の気球を世界にばらまこうと考えている人々がいます。風に流れて飛ぶ気球は,その航跡そのものが情報として重要ですし,その現場での情報を得るにはうってつけというわけです。むろん,衛星で培われたリモートセンシング技術も使えます。

2.ペンギンの追跡

 ペンギンの観測をしようと思うと,極のあたりに飛翔体が必要ですが,人工衛星は軌道面が地球の重心を通る必要があるため,極だけに存在させることはできません。ところが,気球は風の関係から航跡制御をしなくても,南北の極のまわりを周回することになります。というわけで,数十個くらいの気球を南極で飛ばすと,とあるペンギンの上には常に気球がいる,という状況が出現します。ペンギンの生態を観測しましょう。ある種のペンギンは大移動をすることで知られており,その学術的研究が待たれているのです()。むろん,白熊も見えます。

3.多波長,多粒子観測天文台

 現在,天体観測を行う上では空気に邪魔されない環境を求めて人工衛星まで行ってしまうわけですが,極端紫外,軟線領域を除けば,気球高度で十分です。むろん,粒子線だってつかまえられるし,宇宙塵だって降ってきます。ぜひ,多波長,多粒子観測天文台を作りましょう。

4.天空の城ラピュタ

 宇宙ステーションは,無重力という点で魅力的ですが,人間が暮らしてゆく上で,重力がないというのは不便なものです。宇宙線の影響はありますが宇宙ステーションよりは住みやすいでしょう。生物実験にとっても重要な基地となります。宇宙ステーションでの実験で問題となるのが,無重力状態になることと,宇宙放射線を浴びることの二つが同時に起こるため,どちらの起源による現象か区別ができないことです。気球ステーションでの挙動と宇宙ステーションの挙動の違いによってどちらの影響かわかるようになります。ぜひ,与圧部をつくって木を育てましょう。飛行石はありませんが,ラピュタができます。

5.気球ウオッチングブーム

 このような気球が空を飛び交うようになると,ちょっと気をつけると簡単に気球を見ることができるようになります。大空に浮かぶ大気球は半分透明で,海の中を泳ぐくらげを連想させます。また,夕闇が迫る頃,金星のように輝きながら飛行する気球はなかなかロマンチックです。気球はかなり離れていても見える大きさなのですが,半透明なため,見つけるには慣れが必要です。肉眼でもみえますが,もちろん,双眼鏡や望遠鏡を使うのもお勧めです。  アヤシイ話をいろいろ書きましたが,それもこれも「高度60km程度をずっと飛びつづける気球」ができたらのこと。そのためには,せっせと開発を続けるしかありません。今年もまたフィルムと格闘してゆくことでしょう。

(さいとう・よしたか) 


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