No.238 |
ISASニュース 2001.1 No.238
|
|
---|
|
地球外生命体の設計図を手に入れる!黒 谷 明 美20世紀最後の年に,ヒトゲノムの概要の読みとりが完了した。ヒトゲノムとは私たち人間のからだをつくるすべての細胞にある,ヒトの全遺伝情報を備えた1セットのDNAである。「ヒトゲノムの概要の読みとりを完了した」とは,「人類の全遺伝情報の塩基配列を完全に調べた」ということである。これで私たちは「人間の設計図」を手に入れたことになると言われるが,当然ながら,この設計図だけでは人間を造りあげることはできない。それぞれの塩基配列の指示する情報,つまり,人間の一生の中でどの細胞が,いつどのように現れ,どんな機能をするのかという設計図の意味を読み解いていくことが必要になる。これは単純な全塩基配列の読みとりとは桁ちがいにたいへんな作業となるはずだ。この新しい世紀の間にどこまで進むのか,たいへん興味深い。 さて,ヒトゲノム計画の最終目的が生物を一から造りあげることではないにしても,将来,生物を創造するだけの情報や技術を得ることが必要になる場面が出てこないとはいえない。 こんな夢を見た。ずいぶん遠い未来のことのようでもあり,実は近未来のことなのかもしれないが,ヒトゲノム計画が順調に進み,人類がヒトやその他の生物の設計図とその読み解き方を完全に手中に収めたあとのことである。ついに,人類は地球外の知的生命体からの信号を受信する。地球外知的生命体との交信がどんなに難しいのか検討もつかないが,物理学や数学の法則は,おそらくお互いに共有できる(通じる)共通の知識情報であろう。しかし,生命科学の情報というのは,宇宙では,どのくらい一般的なのであろう。それを知ることが,地球外生命を探索する目的の一つではあるわけなのだが・・・・。いろいろな交信を試みていくうちに,どうやら向こうも人間くらいの知的レベルの生命体であることがわかった。どちらも互いの星を訪問する技術はまだもっていなかった。信号のやりとりだけで自分たちの星の生物について説明しなくてはならない。私たち人類は,ヒトゲノム計画で明らかになったヒトやそのほかの地球生物の設計図とその読み解き方を信号として送った。相手も同様の情報を地球へ送信してきた。どちらもその設計図と読み解き方を使って,相手の星の生物を造ることができるのだ。ついに人類は地球外生命体の顔を見,その手に触れることができる!ところがそれほど簡単ではなかった。どちらの星でも,送られてきたマニュアルの「できあがり図」にあるオリジナルとはまったくちがう生物が創造されていた。すべてを物理学や数学の法則で置き換えることがまだできなかった,複雑な生命科学の情報を正確に伝えるのはやはり難しかったのだ。それぞれの星に相手側が想像もできないまったく異なる「常識」というものが存在していたことも一因であった。
「ほらね,こんな風にも,あんな風にも,考えることができるんだ。」 (くろたに・あけみ) いろいろな生物のゲノム数。ゲノムのサイズは、体の大きさや複雑さとは必ずしも対応しない。(平林久・黒谷明美『星と生き物たちの宇宙』集英社より)
|
|
---|