No.238 |
ISASニュース 2001.1 No.238
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惑星の空を飛びたいな今 村 剛他の惑星の空を飛べたらいいと思います。飛行機も良いのですが,気球で風まかせというのも悪くありません。寒いところより暑いところのほうが好みなので,地球の兄弟星,金星で想像を膨らませてみます。 金星は惑星全体が厚い雲で覆われているので,地表面を外から可視光で見ることはできません。レーダーで雲を透かして表面地形が調べられたことがありますが,そこは多種多様な火山地形や溶岩原に覆われた異形の世界です。地表面は比較的?新しく,数億年前に大規模な火成活動で地表面が作り変えられてしまったと考えられています。しかし可視光で外から見えませんから,いま活火山があるかどうかもわかっていません。地表面の組成も謎だらけです。 そこで,雲の下に気球を浮かべて,風に流されながら広い範囲の地表面を観察したらどうでしょうか。雲の下とは言っても,金星は大気が濃すぎて,可視光では霧の中にいるようなものなのですが,ある種の赤外線では大気が透明であることがわかっています。そのような赤外線を写すカメラを持っていけば,表面地形を1mまで分解することができます。これまでで最も細かい金星の地形図はマゼラン探査機のレーダー観測によるもので,分解能は100mですから,一気に百倍です。大山脈や渓谷の上を漂いながら下界を見下ろせば,一体何が見えるでしょうか。地形の形成過程や溶岩の組成について理解が進むのはもちろん,活火山があれば噴煙が見えるかもしれませんし,夜側では噴出したばかりの熱い溶岩が輝いているのが見えそうです。想像もしないような地形が見つかるかもしれません(遺跡はないかもしれませんが)。もちろんこのような画像は,オービターを介してどんどん地球に送って,我々は準リアルタイムで気球からの眺めを楽しみましょう。金星ではどこでも強い東風が吹いていますから,下界の景色はどんどん変わっていくはずです。 気球を浮かべるからには,気球の運動から風を調べて,金星気象の謎も解きましょう。金星のどこでも吹いている東風ですが,このような風が吹く理由はわかっていません。大気組成,とくに同位体(同じ化学的性質を持つが重さが異なる物質)も面白いターゲットです。これをちゃんと測ると,金星の歴史がわかるばかりでなく,金星と同時期にできたと思われる地球の成り立ちのヒントにもなります。 気球のデータを中継するオービターでも面白い観測ができます。波長の長い電波による地下レーダーはどうでしょうか。このような探査をするには電離層が邪魔なのですが,太陽活動度が低い時期なら夜側では十分に電離層が薄くて,レーダーで地下を探れる可能性があります。数億年前の火成活動で姿を消した太古の地殻が姿を現すかもしれません。 妄想は尽きません。 (いまむら・たけし)
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