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不具合を克服し,SOLAR-B,夏期打上げへ


熱真空試験準備中のスナップ(2006年3月16日)

 太陽観測衛星SOLAR−Bの総合試験は大詰めの段階を迎えています。昨年秋に動作不良を起こしたミッションデータプロセッサの改修も無事終わり、3月後半には、いよいよ総合試験の最後の(と思いたい?)山場=熱真空試験に突入しました。SOLAR−B衛星の三つの搭載機器はいずれもコンタミ(ほこりや化学物質による汚染)を極度に嫌う望遠鏡であるため、クリーンルーム内でも普段はコンタミ防止のカバーをかけています。このカバーを付けたままでは、熱真空試験になりません。チェンバーの1階の衛星搬入部と2階のマンドア(作業員出入り口)の周辺に特製のクリーンブースを設け、人と物が出入りする際にコンタミ粒子が混入しないように気を配りました。

 さて、チェンバー内に衛星を入れ、蓋を閉める前に熱真空試験前の動作確認です。衛星をオンにしてしばらくすると、あっ、バッテリ部の温度が上限近くまで上がっている。衛星がチェンバー容量ぎりぎりの大きさであるため、衛星から出た熱がうまく逃げてくれないのです。そんなこともあろうかとかねて用意の送風機を取り出したまではよかったのですが、コンタミ粒子をまき散らさないようにセットするのに一苦労。何とかここを切り抜け、事前動作確認を終了させることができました。

 いよいよ真空引き、これからが熱真空試験本番です。まずは高温条件下での熱平衡試験。ほぼ予期していた温度分布が実現しています。引き続き全機器の動作確認。幸い、OKが出ました。その後、日照・日陰を模擬した熱サイクル試験を進めたところ、微妙な異常が発生しました。日陰に同期して、チェンバー真空度がわずかながら劣化、同時にチェンバー内のヘリウム検出器がヘリウム分圧の増大を検出していました。この状態では、先に進めません。いったん試験の進行を止め、原因究明=トラブルシューティングに入りました。何せ相手はチェンバーの中、何が起こっているかを理解するまでは先に進めません。

 限られた情報を精査し、ヘリウムの漏洩個所が推進系のバルブ周辺であることを突き止めるまでに丸3日間かかりましたが、漏洩が起こる条件も分かり、漏洩を避けつつ熱真空試験を最後まで完遂することができたのは、今から思うと不幸中の幸いでした。

 熱真空試験ではほかにも衛星システムと海外機器との間のインタフェースで齟齬が見つかりましたが、これらについては別に報告する機会があるでしょう。何といっても最大の問題は、上記の推進系バルブ周辺からのガスの漏洩です。熱真空試験後、ゴールデンウィークをすべてつぶしてのトラブルシューティングで、漏洩がバルブ本体からであること、原因はバルブ内にコンタミ粒子が混入したためであること、バルブを洗浄すると漏洩が止まることが分かりました。打上げ時期を遅らせることになるかもしれないという悲観的な気分になることがなかったわけではありませんが、関係者の連休を返上しての必死の取り組みで危機を克服できたと報告できることは、うれしい限りです。

 なお、原因究明作業の途中では、結果的にはぬれぎぬであったわけですが、あらぬ疑いをかけられた機器もあります。これらの機器の担当者には、嫌な顔ひとつせず、原因究明に協力いただいたことを感謝します。5月末日現在、SOLAR−B総合試験はほぼ当初の予定通りのスケジュールに戻って、夏期打上げに向け順調に作業が進められています。

(小杉健郎) 


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