No.303
2006.6

ISASニュース 2006.6 No.303

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スペースVLBI衛星「はるか」 その2 

井 上 浩 三 郎 


「はるか」


 「はるか」を打ち上げたM−Vロケットは、1990年代以降の科学ミッションの進展に対応するため、1990年に開発が開始されたものです。直径を増大し、ファイア・イン・ザ・ホール分離/点火技術、各種新材料、高燃速高性能推進薬、新開頭機構、ファイバ・オプティカル・ジャイロなど、さまざまな新技術を導入して、宇宙科学研究所が長年培ってきた固体ロケット技術の集大成として全段を新規に開発しました。押しも押されもせぬ固体燃料ロケットの世界最高峰です。


工学技術の開発と実証実験成果

 「はるか」が工学実験衛星として掲げた技術開発項目には、軌道上で展開する直径10m級の大型展開アンテナの実現や大型構造物を持つ衛星の精密な姿勢制御をはじめとして、実にたくさんのものがあります。それらはすべて軌道上で実証実験を行い、成功裏に所期の目的が達成されました。その結果、スペースVLBIで宇宙を観測するための基本的なシステムが実現しました。


ロケットも衛星も初物ならではの難しさ

 新規開発したM-Vロケットの1号機に搭載する衛星であり、しかもその衛星にも多くの新規開発機器が搭載されているわけですから、それには大変な困難が伴い、多くの関係者の苦労がありました。

 特に衛星設計上苦労したのは、一つはロケット打上げの機械環境条件が確定しない中での開発という点であり、もう一つは衛星がちょうどバンアレン帯の中に潜り込み、放射線環境が非常に厳しい軌道を周回するため、搭載機器の部品を放射線環境から守らなければならないことでした。


直径45cmのKuバンドパラボラアンテナ。
このアンテナは常にKuバンドリンク局を指向するように制御される。
工学実験の主要な目的の一つである大容量データ伝送、
位相基準信号の地上から衛星への伝送に用いられた。

衛星システム設計の苦労

 衛星システム設計を担当した日本電気の中川栄治さんは、次のように語っています。

──機械環境条件はM-3SIIロケットの条件、M-Vロケット地上燃焼試験時の試験データをもとに決められ、それに基づいて構造解析を行い、STM(構造試験モデル)を製作し、STMをランダム試験に供し、衛星の各パネルの応答レベルをもとに各機器の試験レベルを決めました。また実際に遭遇する音響環境に対しても心配になり、STMを当時の宇宙開発事業団の筑波宇宙センターに持っていき、音響試験をしました。その結果を反映して各機器に対する振動レベルを決めたのですが、この振動レベルが過大にならないよう、衛星内の機器の搭載個所を13の部分に分けて、各場所での振動レベルを規定しました。

 一方、放射線環境から部品を守るために、機器の筐体の肉厚を一般的なものより厚くしなければなりません。これをすべての機器に一律に適用してしまうと、衛星の重量が増加してしまい、思うように衛星設計ができなくなるおそれがありました。このような事態に陥らないように、機器の中の一つの部品に対する放射線のシールドをその機器のみの筐体だけでなく、衛星の構造材料を含めた周りのすべての機器がシールドとして作用するという考え方を採用しました。放射線シールドモデルを構築し、各機器の筐体の肉厚を変化させて放射線解析を行い、すべての対象となる部品の耐放射線要求を満たして、機器全体の重量が最小になるよう、各機器の筐体の肉厚を設定したのです。その結果、筐体の厚さが面ごとに異なる機器も出てきました。──

(いのうえ・こうざぶろう) 


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