No.303
2006.6

ISASニュース 2006.6 No.303

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西へ東へ、また西へ 
  宇宙科学の将来とJAXAの長期ビジョン、そして「すざく」 

高エネルギー天文学研究系 高 橋 忠 幸 


 「昔、ローマがまだ村だったころ、すでに中国には偉大な文明が栄えていました。ここ数十年、中国が世界の表舞台に出ていなかったとはいえ、4000年の中国の歴史の中で、まばたきにしかすぎないのであります」と演説したのはイタリア大使館の大使。4月19日から21日にかけて北京で行われた国際会議「Space Particle 03」の2日目、出席者全員がイタリア大使館に招待され、オペラ歌曲の鑑賞からスタートしたパーティーの席上でのことでした。

 「Space Particle」は、宇宙を舞台とした素粒子物理学、基礎物理学、そして天文学の研究者が集まる国際会議です。各国の宇宙機関の代表者も招待され、それぞれの国が宇宙科学にどのように取り組んでいるかを国際的な科学コミュニティに向かってアピールすることが求められているのも特徴です。

 一昨年のワシントンDCに続いて組織された会議の場所は北京。設定されたテーマは、「Space Science Mission in China」でした。黄砂の舞う中、「北京航空航天大学(Beihang University)」を舞台に行われた会議は、中国代表の「我が国は打上げロケットのみならず、小型、中型、大型のどのクラスにおいても実証済みの共通衛星バスがあり、宇宙技術に対してはすでに高い水準にきている。世界の科学のコミュニティは、ぜひともこの機会を使ってください」と熱のこもった発表から始まりました。その後、アメリカ、ヨーロッパ、ロシア、イタリアそして日本と、それぞれ宇宙機関としての現状と長期ビジョンの発表が続きました。

 日本からは宇宙科学研究本部を代表する形で私が話をしました。日本が優れた技術をベースに、規模は小さくても独自な方向性を持って、いかにして大きな成果をあげてきたか、そして長期ビジョンに記された「宇宙と物質、空間の起源」や「宇宙における生命の可能性」といった課題に、今後20年にわたってどのように取り組もうとしているか話をしました。2004年の会議と比べ、英語で書かれた日本の長期ビジョンの文書を提示できたことは、国際社会に生きなければならない宇宙開発において格段の進歩なのかもしれません。

 宇宙科学には国際協力が必須です。その際、限られたリソースの中で最大限の貢献を行い、強い存在感を世界に示すことが求められます。アメリカやヨーロッパはお互いを強く意識した大テーマを、ロシアは打上げロケットの実績を背景に宇宙科学への復活を目指した議論を展開していました。それに対して、会議の主催メンバーということもありましたが、イタリアはヨーロッパの中で独自な輝きを持つように動いていることを強く感じさせるように、会議を進めていました。国際政治と同じで、国際協力においても駆け引きがあり、うまくまとめ上げるには高い交渉能力が求められます。冒頭の話のように、大使までが宇宙科学の会議に登場し中国の力を高く評価して、自国との国際協力の推進を後押しするというのには驚きです。

 我々がJAXAの長期ビジョンの中で示した「宇宙科学において世界のトップサイエンスセンターになる」というビジョンを達成するのは、容易なことではありません。日本が中心となって進めているミッションが成果をあげ続けない限り、今後の将来計画において強力な国際協力のメンバーを引き込むことは不可能です。

 「すざく」の打上げからはや10ヶ月。順調だったこと、思わぬトラブルが起きたこと、それを乗り越えて示しつつある「すざく」のパワー。「あすか」以来、再び衛星を手にして、これからが正念場です。北京から戻ったその翌週4月26日には、アメリカが「すざく」に参加し続けるために必要な予算のヒアリングのため、ワシントンDCのNASA本部に急遽駆けつけることになりました。正式なアナウンスはこれからですが、幸いなことに、2010年までのサポートを得ることができました。「すざく」関連で、昨年の9月から毎月のように、時には月に2回も3回も、海外に出掛ける状況が続いています。「起こったこと」の説明責任を果たすと同時に、広帯域観測というもう一つの「パワー」を示すために、皆で世界を駆けずり回る日々は、「すざく」論文がどんどんと出始めるまで続きそうです。

「Space Particle 03」が開催された北京航空航天大学

(たかはし・ただゆき) 


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