No.300e
2006.3 号外

ISASニュース 2006.3 号外 No.300e 


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40年を振り返って 

システム運用部第2運用開発グループ 並 木 道 義  


南極で気球を揚げる

 宇宙研の前身である東京大学航空研究所は、目黒区駒場(現在の東京大学先端科学技術研究センター)に在所していた。今からおよそ40年前、同研究所の航空力学部に採用され、吹き出し口直径2mの低速風洞において飛行機、自動車などの各種風洞実験を行っていた。

 この低速風洞は、試験を行う模型を風洞測定部の上部に設置してある6分力測定装置に細いピアノ線を使用して吊り下げて計測を行うものである。その後、東京大学宇宙航空研究所が創設され、ロケット、衛星部門が新設された。大気球との付き合いは、1966年に大気球部門が創設され、当時私の上司であった河村龍馬教授が初代の大気球委員長に指名されたことにより、大気球実験のお手伝いをすることになったことから始まる。

 茨城県大洋村に仮設の実験場を設置し、大気球による科学観測実験が開始された。その2年後には福島県原ノ町に移転し、さらに1970年、岩手県の三陸町に恒久基地として三陸大気球観測所が開設された。このころの私は、風洞実験を行いながら年に1回は気球の実験に参加させていただいた。初期の気球実験では観測器の重量は数十kg程度であり、観測器を抱え、気球がリリースされた後に移動する気球の真下に走り、観測器を放すことが多かった。1978年に所属していた研究室の河村教授が定年で退官されたのを機に気球部門へ移ることになり、気球の放球に携わることになった。

 日本の放球場は狭いため、気球下部を畳んで地面に置き放球を行う「スタティック放球方式」と呼ばれる方法で気球の放球が行われていた。1980年から気球本体をローラー車によりランチャー上に立て上げて放球を行う「立て上げ放球法」が主流となり、19年間この方法により気球の放球が行われていた。しかしさらに大型化、精密化する観測器が増え、気球本体も大型化してきたことにより放球場を拡張し、立て上げ放球法の短所を改良し、長所を生かす方式として大型放球装置の開発を行い、拡張した部分に設置した。この放球法は、観測器を保持している大型放球装置が固定式であるため、「セミダイナミック放球法」と名付けられた。大型放球装置を用いた観測器の放球実績は20機を数える。

 気球実験が行われるようになってからこれまでにおよそ600機が放球されたが、そのうち400機程度の放球に携わってきた。気球を使用した観測は国内にとどまらず、外国との共同気球実験も数多く行われており、私自身も共同実験に参加した。これら共同気球実験の多くは、1ヶ月から1ヶ月半程度滞在し、実験を行う。オーストラリアではアリススプリングス空港で実験が行われ、上層の風向風速を測定するためのゴム気球を放球する際、ゾンデを持って走り、ゾンデを離すときに誘導路わきの溝に落ちてしまった。ブラジルでは2度の気球実験に参加し、回収の際、観測器からの電波を受信する日本製の小型の受信機を持って出掛けたが、プリアンプのバッテリーがショートしていたため観測器の10m手前でやっと受信できたという苦い経験もした。

 国立極地研究所と共同で南極の昭和基地において夏隊として3度参加し、気球の放球を行ってきた。南極へは観測船「しらせ」で往復するが、全行程は毎年11月下旬から翌年3月下旬までの4ヶ月間であり、昭和基地に滞在する期間は1ヶ月半程度である。1992年に初めて昭和基地で気球実験を行ったとき、地上風速の予測が難しく悩んでいたが、ちょうど日本の山上隆正教授から電話があり状況を伝えたところ、「できると思ったら自信を持って行いなさい」と激励され、決心して放球を行った。その結果、26日間飛翔し続けて南極大陸を1周半し、長時間観測に成功した。また、小型衛星をアフリカで回収する実験にも参加し、モーリタニア共和国へも調査を含め2度訪れた。

 2006年2月には福島県の小野町にある町民体育館において圧力気球の実験が行われ、今後の本格的な長時間気球観測にもめどがついた。気球を利用した観測はさらなる飛躍を遂げようとしており、今後の活躍を期待したい。私自身気球チームでたくさんのことを学ばせていただき、感謝に堪えません。技術系職員の発展と活躍を希望します。40年間、本当にありがとうございました。

(なみき・みちよし)


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