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宇宙科学の最前線

太陽フレアの発現メカニズム解明に取り組む「ひので」 太陽系科学研究系 准教授 清水敏文

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太陽フレア

太陽フレアは、太陽面で起きる、太陽系最大のエネルギー規模の爆発現象である。この爆発の発現の根源には、太陽が持つ磁場がある。磁場はねじられたりして変形することで、エネルギーを蓄えることができる。そのエネルギーが、磁気リコネクションと呼ばれる物理機構によって、プラズマの熱や運動エネルギーに短時間で変換される自然現象が、太陽フレアである。強い磁場(黒点)が集まる活動領域において大きなエネルギーが蓄えられやすく、大規模フレアの多くは活動領域で起きる。しかし、いつ、どこで、どの程度の大きさのフレアが発生するかを事前に予測する知識を、私たちは残念ながら持っていない。それは、フレアが発現するメカニズムについて物理的な理解がまだ乏しいからにほかならない。


「ひので」によるフレア観測

 2008年ごろから太陽活動に異常な兆候が見られ、太陽活動が今後低下していく可能性が話題となった。太陽活動は約11年の周期で時間変動する(図1)が、極小期だった2008〜09年ごろ黒点が見えない日数が過去100年で一番多かったことを発端として、2013〜14年ごろの極大期の太陽活動が低調になると予測された。実際、極大期に太陽表面に現れた黒点の数は前太陽サイクルの半分程度と、低調に推移している。さらに、現れる黒点も小粒かつ単純な磁場構造のものばかりで、大規模フレアの発生も少なく推移している。


図1 太陽活動の状況
図1  太陽活動の状況 [画像クリックで拡大]
Hathaway(NASA)による黒点数予測(滑らかな実曲線)と実績(ぎざぎざな実線)。背景は「ようこう」軟X線画像。

 太陽観測衛星「ひので」は、2006年9月に打ち上げられ、前サイクルの最後を飾った大規模フレアを同年12月に観測することに成功した。その後は、長い極小期を経て、2011年からやっと大規模フレアが発生し始めた。2008年に発生した通信装置の不調のため取得できるデータ量が大きく減ったが、いつどこで発生するか予測が難しいフレアを視野の狭い望遠鏡で捉える観測運用の工夫が行われ、徐々に観測に成功するフレア例が増えてきた。例えば、2014年12月には約24年ぶりに現れた巨大黒点(『ISASニュース』2015年1月号、No. 406の表紙)の周辺でXクラスと呼ばれる大規模のフレアが6個発生し、そのうち5個の観測に成功した。現在、極大期を過ぎたところに当たるが、統計的な研究のためにもっと観測例を増やしたいところである。


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