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宇宙科学の最前線

太陽フレアの発現メカニズム解明に取り組む「ひので」 太陽系科学研究系 准教授 清水敏文

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トリガー磁場の形成

 フレアがいつどのように発現するかの解明には、トリガー磁場の形成過程の理解は重要である。経験的には、磁場の太陽内部からの浮上活動によって黒点が複雑な磁場形状を持つように発達した場合、大規模フレアが起きやすいことが知られている。筆者らは、「反シア型」の大規模フレアの「ひので」による磁場・速度場の精密観測をもとに、興味深い振る舞いを見つけた。それは、@太陽表面に水平な磁場が磁気中性線に沿って形成され、フレア発生の数時間以上前から音速ガス流がその水平磁場に沿って励起されていること(図3)、Aこの激しいガス流がトリガー磁場を徐々に押してトリガー条件となる磁場構造に変化させていること、などである。これは、光球ガスのダイナミクスがフレア発現のトリガーとして重要な役割を果たしていることを観測的に示唆している。


図3 太陽表面に励起された音速ガス流
図3  太陽表面に励起された音速ガス流 [画像クリックで拡大]
磁気中性線に沿って水平磁場(オレンジ色の矢印の向き)が形成され、そこに音速ガス流がトリガー磁場に向かって(水色の矢印の向き)発生している。

不安定化に向かうコロナ磁場

 一方、コロナ磁場の不安定化の理解も重要である。名古屋大学の今田晋亮氏らは、「ひので」などの極端紫外線分光・撮像観測を用いて、「逆極性型」の大規模フレアにおいてコロナガス(磁場)が徐々に安定性を失っていく様子を捉えることに成功した。フレア発生の半日前からフレア発生領域の外周縁を取り囲む低密度の暗いコロナ構造がゆっくりと膨張するのが見られ、数時間前にはフレア発生領域の高密度で明るいコロナ構造も膨張を始めることを、コロナガスの輝度や速度計測から見つけた。この結果は、フレア発生領域全体やその周辺を取り囲むコロナ磁場の構造がゆっくりと変化して、最終的にフレア発生に至ることを示している。


観測と数値シミュレーション

 数値シミュレーションにおいて、「反シア型」フレアと「逆極性型」フレアでは、トリガーから大規模なコロナ磁気ガスを噴出させるまでの発展過程は大きく異なる。「反シア型」では、小さなトリガー磁場の成長・変化が磁気リコネクションをコロナ底部に誘発させて、フレアが始まる。一方、「逆極性型」では、彩層でのリコネクションを通してコロナ磁場が不安定化することによって磁気ロープが上昇を始め、フレアが始まる。先に紹介した太陽表面でのトリガー磁場の形成や不安定化に向かうコロナ磁場の観測はそれぞれ、シミュレーションの予測を裏付けると考えられる。

 一方、「ひので」の観測データを見ていると、トリガー磁場を特定できないフレア、「反シア型」や「逆極性型」に分類が難しいフレアなどがたくさんある。このような多様なフレアを調べることで、フレア発現に対して重要な条件を観測から絞り込んでいくことが重要である。


最後に

 この研究内容は、昨年末に発刊された日本天文学会欧文研究報告(PASJ)の「ひので」特集号に含まれるフレア3論文がベースになっている。大規模なフレアは、コロナ質量放出を伴い、太陽圏や地球磁気圏に影響を与え、社会システムへも影響を与える危険性を持つ。「ひので」を含む最新鋭の太陽観測と理論研究の連携によって、フレア発現の仕組みについての学術基礎研究が少しでも進むことが、応用(宇宙天気予測)への一助となるはずである。

(しみず・としふみ)

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