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宇宙科学の最前線

「あかり」が照らし出す彗星の素顔  赤外・サブミリ波天文学研究系 研究員 大坪貴文

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 『ISASニュース』2009年4月号の赤外線天文衛星「あかり」特集では、「太陽系からのあかり」というタイトルで、太陽系小天体の代表として黄道光(惑星間塵)と小惑星の観測についての記事が掲載されました。これらの観測は、まだ「あかり」が液体ヘリウムで冷やされている期間のもので、主に中間赤外線(5〜25マイクロメートル)での結果の紹介でした。  「あかり」は、2007年8月に液体ヘリウムを使い切った後も、機械式冷凍機によって望遠鏡と観測装置は冷却されており、現在も近赤外線波長域(2〜5マイクロメートル)で観測を続けています。そこで本記事では、現在も鋭意継続中である彗星の近赤外線観測について紹介したいと思います。

雪だるま? 泥だんご?

 皆さん、彗星のことはご存知だと思います。夜空に長い尾をさまざまにたなびかせる彗星は、天体の中でも非常に美しいものの一つだといえるでしょう。彗星は、「汚れた雪だるま」とも呼ばれ、その本体(彗星核)は氷と塵(砂粒や小さな石ころのようなもの)からできています。遠くからやって来た彗星は、太陽に近づくにつれて氷が昇華し気体となり、塵とともに彗星核の周囲に淡く広がった「コマ」や長い尾をつくります。我々がよく知る「ほうき星」の姿はこうしてできるわけです。彗星の氷と塵の割合に関してはまだ分からないことも多いのですが、最近の研究では塵も意外に多く、「汚れた雪だるま」よりは「凍った泥だんご」に近いのでは、という説も出ていたりします。こうしたキャッチフレーズを付けて大まじめに議論しているところは、何となく微笑ましいですね。

 さて、彗星核の主成分である氷は、80%程度は水の氷で、残りの約20%を二酸化炭素(つまりドライアイス)や一酸化炭素などが占めていると考えられています。そのほかには、メタン、エタン、エタノールなどをはじめとした炭化水素やアルコール(!)、さらにアンモニアなどが微量成分として含まれているようです。水の氷とドライアイスがこうした物質を中に閉じ込めた「雪だるま(泥だんご?)」が太陽系の中を飛び回っている。それが彗星なのです。


ルーリン(鹿林)彗星と「あかり」

 ところで、皆さんにとって一番記憶に残っている彗星はどれでしょうか? 1970年代にはベネット彗星やウェスト彗星、80年代には76年ぶりに戻ってきたハレー彗星、そして90年代にはヘール・ボップ彗星と百武彗星が話題になりました。分裂して木星に衝突したシューメーカー・レビー彗星もニュースをにぎわせました。どの彗星になじみがあるかで、その人の世代が分かるかもしれませんね。そして、2009年初頭には、ルーリン彗星(C/2007 N3)が明るくなるというニュースが報じられました。実際の明るさは肉眼でかろうじて見える程度でしたので、直接見た方は少ないかもしれませんが、その緑がかった青白色の姿と長く伸びた尾の印象的な写真を目にされたことがあるかと思います。

 ルーリン彗星は、2007年7月に台湾のルーリン(鹿林)天文台によって発見されました。ルーリン天文台は台湾の国立中央大学天文研究所が運営している観測所で、ルーリン彗星は台湾の観測施設で発見された最初の彗星です。中央大学天文研究所には、「あかり」の太陽系チームに参加している木下大輔さんが所属しており、今回いろいろな情報交換も行いました。太陽系小天体の研究では、世界各地の小中口径の望遠鏡やアマチュアの方々の観測も非常に重要ですが、今後もこうしたアジアの協力関係が生かされることを期待しています。


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