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特集

「すざく」で見たガンマ線バースト

山岡和貴 青山学院大学 理工学部

 ガンマ線バースト(GRB)とは、数ミリ秒から数百秒の瞬間に、数百キロ電子ボルトのガンマ線を中心とする強力な電磁波を放射する宇宙最大の爆発現象です。その全放射エネルギーは、1051エルグ以上に達し、これは太陽の放射エネルギーの100億年分に匹敵します。しかし、そもそもGRBがどのように起きているのか、どのようなメカニズムで輝いているのかは、まったくの謎に包まれています。「すざく」も、自慢の高感度広帯域望遠鏡(X線望遠鏡[XRT]、X線CCD[XIS]、硬X線検出器[HXD])と、広帯域全天モニタ(WAM)を使ってこの謎に迫っています。いくつか最新の話題を紹介しましょう。
 2005年9月4日、1個のGRBがアメリカのスウィフト衛星で発見され、発生方向が決定されました。その情報をもとに「すばる」望遠鏡でも観測が行われ、可視光のスペクトルから、何と128億光年も彼方(宇宙が生まれて9億年後)にあることが分かりました。これまでに距離が定まったものの中で、最も遠方のGRBです。「すざく」に搭載されたWAMも、このGRBからの微弱な信号を検出することに成功しています。これは、「すざく」で観測された最も遠い天体です。図28に、WAMで観測されたGRBのスペクトルを、スウィフト衛星やウインド衛星などのGRB検出器のデータと並べて示します。特にWAMは100キロ電子ボルト以上の信号を検出し、詳細なスペクトルを得ることに成功しました。さらに全放射エネルギーの見積もりなどから、このGRBの周辺環境は通常のGRBに比べて100倍以上も物質の密度が濃いことが明らかになりました。これは、宇宙初期に星形成が活発であったことを示すものかもしれません。このようにGRBは、銀河形成期の環境を照らすサーチライトとして、宇宙初期を探査する可能性をもたらしてくれます。

図28 最遠方のガンマ線バーストGRB050904のエネルギースペクトル
スウィフト衛星(黒)、ウインド衛星(青)、「すざく」の広帯域全天モニタ(WAM)(赤)で検出。WAMはスウィフトではカバーできない、100〜1000キロ電子ボルトの詳細な情報をもたらしている。

 また、WAMはショートGRBの起源に迫りつつあります。GRBには継続時間の短いもの(ショートGRB)と長いもの(ロングGRB)の2種類があることが知られており、この二つの起源は異なるとされてきました。ロングGRBは超新星爆発と関連していることが明らかになっていますが、ショートGRBに関しては、まったくの謎です。WAMの大きなガンマ線検出面積によって、初めて両者のエネルギースペクトルの違いを詳細に議論できるようになりました。ショートなものは、スペクトルが硬く、メガ電子ボルト近辺をピークとして放射が起きていることが明らかになったのです。これは、ガンマ線放射に起因する相対論的電子の加速が異なることを意味します。
 さらに、2005年11月3日に起きたショートGRBは、WAMでも観測され、発生方向が数度の誤差で決定されました。その誤差の中に近傍の銀河M81があることが分かったのです。WAMの詳細なエネルギースペクトルを解析したところ、M81から来たと考えて、全エネルギー放射量は意外に小さく1046エルグでした。これは、2004年12月27日に起きた、我々の銀河系にある軟ガンマ線リピーターSGR1806-20の巨大フレアの光度と同程度です。軟ガンマ線リピーターはマグネター天体とされ、1015ガウスというとてつもない磁場を持った中性子星の候補天体です。もしかしたら、ショートGRBの一部は、こうした近傍銀河に存在するマグネター天体の巨大フレアなのかもしれません。
 WAMは年間140例を超えるペースで、これまでに300例以上のGRBを観測してきました。ただし、「すざく」はこれだけにとどまりません。GRBのご本尊をWAMで検出し、その爆発の後、数日から数週間にわたって輝く残光(アフターグロー)をXISやHXDで観測することができます。X線残光観測に対しては一刻も早く観測できるような体制を整え、3例のGRBを観測しました。そのうちの一つは2007年3月28日にスウィフト衛星で発見されたもので、発生後約3時間という驚異的な早さで「すざく」を向けることに成功しました。スウィフト衛星が発見した、数千秒間にわたって見られる、緩やかな減光をつくり出す機構の解明に向けても、「すざく」の高い感度と、広帯域分光の力に期待が集まっています。

(やまおか・かずたか)