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特集

全天を覆うX線の起源を探る

竹井 洋 オランダ宇宙研究機関 高エネルギー宇宙物理学部門

 観測というのはふつう、興味のある天体に望遠鏡を向けて行います。しかし、目立った天体がない場所を観測しても、視野いっぱいに広がるような放射が見つかります。エネルギーが100〜1000電子ボルトのX線で宇宙を見ると、全天のどこを見ても「超軟X線背景放射」と呼ばれる、この広がった放射が見えます。しかし、発見されてから30年もの間、その起源は謎に包まれていました。私たちの住む銀河(銀河系)からのX線と、はるか彼方からのX線が、両方見えているのだと考えられていますが、それぞれどの程度の割合を占めているのか、どのような物質がX線を出しているのかを知るのは、簡単ではなかったのです。

図27 超軟X線背景放射の分布とスペクトル
中心はROSAT全天探査による3/4キロ電子ボルト帯の画像(Snowden et al.、 1995、 ApJ、 454、 643)。色の違いは明るさの違いを表す。四隅に示したのは「すざく」のX線CCDカメラ (XIS-BI)で得られたX線スペクトル。横軸はX線のエネルギー(電子ボルト)、縦軸はX線強度。精度よくエネルギーを決めることで、各領域の放射がどのような元素によるものかがはっきりと分かる。

 図27の中心にある画像は、超軟X線背景放射の分布です。銀河系の構造(銀河系円盤、バルジ、過去の超新星爆発の名残)が見えており、少なくとも銀河系から来るX線があることが分かります。その起源をさらに詳しく知るには、エネルギーを決めることが重要です。X線のエネルギーからは、X線を出している物質に含まれる元素の量や温度が分かるからです。これは「すざく」のX線CCDカメラ(XIS)の得意技です。図27の四隅に、四つの方向のX線のエネルギーと強さの関係を示しました。酸素、ネオン、鉄に特徴的なX線が見え、場所によって強さが違うことが一目瞭然です。さらに明るさの時間変化も調べ、「すざく」は以下のことを明らかにしてきました。

  1. 太陽風によるX線がかなり存在する:これは太陽風のイオンと地球近くの中性の粒子の間の「電荷交換」という反応によるものです。太陽活動の11年の周期に対応してX線の明るさも変化し、太陽風のフレアが起こったときには、明るさが突然数倍になることもあります。太陽系という身近な領域からのX線がこれほど多いとは驚きでした。
  2. 銀河系内(銀河系円盤、バルジ、超新星爆発の名残)には比較的熱いガスが存在し、このガス中のネオンや鉄からのX線が見えている:この熱いガスは銀河系の構造に沿って存在するようです。
  3. 銀河系の外から来るX線は銀河系内に比べ暗い:背景放射のほとんどは銀河系内(10万光年程度)から来ており、特に太陽系の近く(100光年程度)からの割合が大きいです。

 X線を使った精密な観測は、これまであまり知られていなかった高温ガスの分布を明らかにする唯一の手段です。超軟X線背景放射は、近くからのX線も遠くからのX線も足し合わされたものです。これを理解するのは簡単ではありませんが、太陽系、銀河系、そして銀河団を超える大構造まで、あらゆるスケールの高温ガスの分布を知る手掛かりとなり得るのです。まだまだたくさんの疑問が残っています。銀河で生まれた高温ガスは銀河と銀河の間にまき散らされると考えられていますが、どの程度広がっているのかは分かっていません。また、何億光年にもわたって広がる、銀河や銀河団を結ぶ高温ガスの大構造が存在するともいわれていますが、その証拠は見つかっていません。「すざく」による観測がこういった謎に答えていくと期待して、私たちは研究を続けています。

(たけい・よう)