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特集

宇宙最大の天体、銀河団のダイナミックな進化に迫る

太田直美 JAXA宇宙科学研究本部 高エネルギー天文学研究系

図25 「すざく」によるケンタウルス座銀河団のX線画像
4600万度の高温ガスが広がっている。

 私たちの太陽系がある天の川銀河は、実は、おとめ座銀河団の一員です。では、「銀河団」とはどのような天体なのでしょう。それは、1000個もの銀河が群れをなす宇宙最大の天体です。しかも、これまでに1万個以上も発見されていて、宇宙全体の進化を調べるのになくてはならない存在になっています。ここでは、「すざく」で迫る銀河団の驚くほどダイナミックな進化について紹介します。
 銀河団を目では見えないX線で観測すると、何とそこには1億度にも達する高温プラズマの塊が明るく輝いています。しかも、この高温プラズマを一つの場所に閉じ込めておくためには、銀河の重力だけでは足りません。いまだ正体不明の「暗黒物質」と呼ばれる物質が、大量に(太陽の質量の約100兆倍も)潜んでいるのです。さて、こんな巨大な天体が、いったいどうやってできたのでしょう。
 理論によると、銀河団は宇宙の100億年を超える長い歴史の中で成長を続けてきたと予言されています。そして、その成長の様子はとても激しいものです。銀河団同士が秒速数千kmもの猛スピードで衝突しては合体し、それを繰り返しながらさらに巨大な天体へと育っていくのです。衝突が起きると、銀河団中のプラズマがおよそ秒速1000kmものスピードで50億年間も運動し続けるといわれています。しかし、今のところこれを裏付ける証拠はつかめていません。そこで、我々は優れた感度を持つ「すざく」を用いることで、その検証に挑みました。
 最初に観測したのは、我々から1.6億光年の距離にあるケンタウルス座銀河団です(図25)。高温プラズマの運動の測定には、ドップラー効果を活用します。原理は、救急車のサイレンでおなじみのように、プラズマが我々から遠ざかっていればそれから放射されるX線の波長は伸び、逆に近づいていれば縮むというものです。高温プラズマからはさまざまな元素に由来する特性X線が放射されますが、中でも鉄元素からの特性X線がこの測定に向いています。ただし、たとえプラズマが秒速1000kmものスピードで動いていても、その波長はもとの波長に比べてわずか0.3%しかずれません。

図26 ケンタウルス座銀河団中の高温プラズマからのX線スペクトル
横軸がX線のエネルギーを、縦軸がX線の強度を表す。約6.6キロ電子ボルトにある山が、鉄元素からの特性X線。なお、エネルギー(キロ電子ボルト)の逆数に約12.4を掛け算すると波長(Å)になる。

 我々は「すざく」のX線CCDカメラ(XIS)検出器を用いることで、ケンタウルス座銀河団を約50個の領域に細かく分け、それぞれの領域を精密に調査していきました。そして図26のように鉄の特性X線をはっきりととらえ、波長を精度よく測定することに成功したのです。それからドップラー効果による波長のずれを調べると、高温プラズマの速度は大きくても秒速1400kmであると求まりました。これは過去の測定の2倍もよい精度を達成しています。今後もこの方法を使いながら、「すざく」により銀河団の謎を解明していきます。

(おおた・なおみ)