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特集

イトカワの衝効果

横田康弘 セレーネプロジェクト 研究員

 皆さんは満月の夜、月の明るさに驚いたことはありませんか? 満月は半月に比べて見掛けの面積が2倍ですが、明るさでは4倍以上です。太陽―天体―観測者がなす角度“位相角”がゼロ度に近づくと急激に明るくなるこの現象は“衝効果”と呼ばれます。その原因の一つは、月面の砂粒がふわりと積もってできるミクロな凹凸です。観測者がこのくぼみをのぞき込むとき、影が視野に映る割合は位相角に応じて変わるため、マクロな月の明るさも変わります。多くの小惑星でも、これまで地上観測で衝効果が確認されてきました。

図11 ミューゼスの海の衝効果

図12 岩石の多い地域での衝効果

 イトカワでも、「はやぶさ」により衝効果が確認されました。探査機による小惑星の衝効果観測は世界で初めてです。図11は、広角光学航法カメラ(ONC-W1)で得られたミューゼスの海の画像です。「はやぶさ」の影の本体左上隅にあるカメラ搭載位置(位相角ゼロ度)に向かって、イトカワ地表が明るくなっていることが一目瞭然です。通常、衝効果はレゴリスで覆われている天体の表面で起こると考えられてきました。しかし驚くべきことに、イトカワでは明らかにレゴリスで覆われていない場所(イトカワにおけるレゴリスの流動と分別 参照)でも衝効果が観測されたのです(図12)。岩石表面で衝効果を起こすメカニズムの研究が今後の課題です。

(よこた・やすひろ)