No.288e
2005.3 号外

ISASニュース 2005.3 号外 No.288e 


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- No.288 号外 目次
- ごくろうさまでした
- Mロケットの明日を“読む”
- 皆さんありがとうございました
- 「開発」と「自然の叡智」への想い
- 宇宙研よ,さようなら!
- 思い出に残るスポーツ大会
- 宇宙にかける夢
- 40年は矢のように過ぎて
+ お世話になりました
- 心からお礼を申し上げます

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お世話になりました 

矢 守 章  


永年連れ添ったレールガンの前で

 “古い上衣よ,さようなら♪♪♪”という「青い山脈」の歌詞ではないが,“懐かしい宇宙研よ,さようなら”という日がきました。

 将来宇宙関係の仕事に就くことを目指していたわけではありませんが,高校のとき「タイガーロケッティ」というバルサ材製機体を少量の推薬で飛ばすロケットおもちゃに凝ったことがありました。付属の推薬が尽きたので,対象飛翔体を変更し,少し大きめのアルミキャップに火薬を詰めたものを作りました。それに火を付けたところ爆発して,破片が足に食い込み,現在に至るも我が足に入っています。

 その後,懲りてそのような火遊びはやめていたのですが,昭和43年,私が遊んだものとは桁違いの火遊びを生業としている宇宙研(当時は目黒区駒場にあり,宇宙航空研究所の名称でした)に入所させていただきました。しかし,私が配属された部署は,火遊びとは何の関係もないプラズマ実験室(共同利用設備)で,主にパルスプラズマを利用した共同実験を行うところでした。

 ところが,駒場より相模原への移転を契機に,新しい火遊び装置を作ることとなりました。その装置は“火の玉小僧”が約1g程度の飛翔体を狂ったように押していき,約1万分の4秒で7km/s以上の速度にまで加速するというものでした。それがレールガン装置でした。

 この20年近く,レールガン装置の開発ならびにそれを利用した共同実験を行ってきましたが,幸いにも破片が身体に食い込むような事故もなく,定年を迎えられることとなりました。本“火の玉小僧”装置は高電圧,大電流を扱かっているので,気を緩めると“火の玉小僧”が暴走し,高校生のときに経験した,一瞬何が起きたのか分からないような事故になる可能性もあります。しかし,毎回の“火の玉小僧”発射実験においては気を緩めることもなく,十分なる安全対策を行ってきたので,“火の玉小僧”の暴走による事故は抑えられました。しかし,“火の玉小僧”を十分制御できなかった結果,最大速度は8km/sを超えることはありませんでした。現在,“火の玉小僧”完全制御の兆しが見られつつあります。そういう中で定年を迎えるのは残念ですが,このことは後任者に託し,陰より応援していこうと思っています。

 “火の玉小僧”レールガンを使用して行われてきた衝突科学実験の内容は多岐にわたり,多くの科学成果を挙げてきました。現在,最も多く行われている衝突実験は,アストロバイオロジーに関することです。アストロバイオロジーといってもご存じない方もいるかと思いますが,一言でいえば宇宙生命の起源を調べる分野で,これからの宇宙科学を推進させていく一分野だと思っています。“火の玉小僧”レールガンは,主に地球生命発生と衝撃との関連を調べることに,その突貫エネルギーを役立たせています。

 宇宙には,多くのスペースデブリと呼ばれる飛翔体の残骸(ゴミ)が高速で飛び交っています。宇宙飛翔体の打上げ並びにその活用を主な業務としているJAXAにとって,スペースデブリは大きな脅威ですが,これに対する対策にも“火の玉小僧”レールガンは活躍しています。そういう意味でも,JAXAの中に高速衝突実験設備を有したセンターを将来作ることは必要かと思いますが,そのとき“火の玉小僧”レールガンが“ビッグバーン”レールガンにまで発展するよう,切に願う次第です。

 30数年の宇宙研生活におきまして,仕事の面では河島先生(現在,近畿大学)をはじめとして多くの人のお世話になり,また仕事以外の面でも多くの良き人々に支えられたことに対しまして,ここにお礼申し上げます。

(やもり・あきら 技術開発部基礎開発グループ) 


“火の玉小僧”レールガンの発射


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心からお礼を申し上げます
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