No.288e
2005.3 号外

ISASニュース 2005.3 号外 No.288e 


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「開発」と「自然の叡智」への想い 

田 之 頭 昭 徳  


今年2月15日,〜原稿執筆を追い込み中〜の筆者。居室にて。

 戦後60年。還暦!「EXPO2005 愛・地球博」の基本テーマは「自然の叡智」。人類は有史以来「開発」という営為によって爆発的に文明を発展させてきた。そして今や,ばく大な化学物質から宇宙開発におけるスペースデブリ等までを含む人工物階層に囲まれ,全地球的規模の環境破壊問題に直面するに至って,やっと「人間の叡智」は「自然の叡智」を意識し「全生き物システムに組み込まれている自分たち」をあらわに自覚したことになる。

 日本学術会議が掲げている「持続不可能・行き詰まり問題」は全世界共通の危機意識であるが,「持続可能な開発のための教育(ESD)」の例同様に「開発」という営為原理そのものは,依然として自然の摂理に抗してきた史的持続の途にある! 以下に自分の宇宙研生活史を記し,21世紀への想いをつづりたい。

 私は中学生になってテレビ放送に接し,ソ連のスプートニク1号打上げ成功を知った。これらTV(CRT)利器登場と宇宙時代の幕開けが一体となって,東大宇航研・KSC設立が結実したのかもしれない。

 1966年,強引に弟を連れ,7時間かけてKSCを訪問。翌年冬には父母を伴って再訪し,野村民也先生に面談。そして,1968年3月末に「はやぶさ号」で上京。駒場の宇航研正門前に,母が渡したゆで卵を持ってバスで降り立った。同日お茶の時間,あのゆで卵はKさんと誰かが食べてくれたほかは,皆さん用心の構え。残りは自分で食べた。

 1970年2月,HITAC5020F大型計算機室採用2年目,「おおすみ」誕生。あの当日,仕事の合間に興味深く手掛けた球面三角法の軌道計算プログラムが第0周予測に生き,NASAの代役を果たし,KSC野村先生からの電話で「よくやってくれた。アンテナを向けてからビーコン受信までの3分間が実に長かった」と感激の声を受けた。ついこの間の,遠い昔の新鮮な思い出。

 同年4月,あこがれの小田稔先生のX線天文学研究室に移籍。X線源の天球儀プロット,プログラムデバッグなどの手伝いから始まり,比例計数管の試作,ガス出し高真空引き,波高分析器による計数管の分解能測定,超薄膜・蒸着膜・多層膜作り,超軟X線〜硬X線発生機による反射率等測定,データ処理プログラム(DP)作りなどを繰り返し経験して,ロケット・気球・衛星の実験・運用に参加した。

 Kロケット実験のとき,発射後に宮原上空でタンブリングする機体を松岡さんと目撃,危険性を語った。「白鳥」初期運用では,連日DP作りに追われ,1〜2時間の仮眠が続き,帰途ダウン。また,10分可視運用の手打ちコマンド送出中,18mφアンテナがほかの電波衛星にロックされ反対の山側を向き,ペンレコ真っ赤のまま消感時刻を過ぎて仰角2度でP-OFFを打った記憶も。

 1985年,高柳先生の宇宙空間原子物理学研究室に移籍。衝突断面積計算の手伝い,蓄積された一連の断面積データ(理論値・実験値・推奨値)の収集,変換,ファイル化,グラフ化による検索・表示システム作り。イスラエルの専用計算機にログインする計算では,数秒で実行結果が得られる速さに驚いた。

 1999年,転職を意識。「相補対誘起場の量子論」を掲げて,国際科学基礎論会議や意識の科学国際会議で発表。基礎生物学研や脳科学研を訪問。転職断念。

 2002年,中村正人先生の研究室に一部屋占有居候の身となる。金星ミッション赤外ボロメータカメラ実験で30年ぶりのハード体験。中村先生に心から感謝致します。かたわらの「はやぶさ号」運用参加では「天馬」以来の技術進歩を体験。加えて,会議時刻錯誤の15分間仮眠で摂食不可となり,胃カメラ検査の体験も。

 以上,「はやぶさ号」で上京以来37年を歩み,今「はやぶさ号」を見送るとき,超膨大な情報ネットワーク社会に進行する「脳の世紀」の複雑系技術展開において,人類が直面する持続問題の根本を何処に求めるかに想いが及ぶ。

 今年2月,京都議定書が発効され,地球環境破壊・気候変動に対する人類初のチャレンジが始まる。自然開発史において自然の審判を仰ぐ初挑戦でもある。自然史としての人類史において,自然の叡智としての人間の叡智は今,持続危機・負の遺産などの予知不可能問題に対処の術がない開発史を自覚して,開発素過程の逆問題解を得るべく,「全学融合型新科学」具現に向かうべき時と思う。そのためにも,「自然の機能分化原理」を問い探り,他方では社会の縦型ピラミッド組織を「球状シェルネットワーク世界組織」へ転回できる道を探るべきである。

 現状,欧州連合(EU)強化が,国連の低迷や米国の一極主義をリードする新力になってほしい。

 明日の複雑系開発が,真に「自然の叡智」を意識し自覚したものに転回できれば,例えばJAXAの開発体制も英国サリー大学のonly oneを見習うかもしれない。それにしても,隔月頻度の宇宙学校開催は恐れ入る活力である。

 ISAS/JAXAの健全な歩み,躍動を祈ります。ありがとうございました。

(たのがしら・あきのり 技術開発部機器開発グループ) 



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