No.288e
2005.3 号外

ISASニュース 2005.3 号外 No.288e 


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宇宙にかける夢 

松 本 敏 雄  


ロケット打上げ前の動作試験風景(1987年2月)

 名古屋大学から旧宇宙科学研究所に移ってから9年。まだはるか先と思っていた定年が,あっという間に来てしまった。ASTRO-Fが上がる前に定年になるのは何とも残念ではあるが,“身から出たさびだからしょうがないじゃないか”と自分で自分を慰めている。とはいえ,これまで無能な私を支えてくださった皆さま方に,まずはお礼を申し上げたい。

 若いころ定年になったら何をするかをいろいろ考えたものだが,いざとなると,なかなか思うようにはいかないものである。これまでの仕事とさっぱり手を切って新たな人生の門出とするのは魅力的ではあるが,具体的に何をするかを考えると,それが思い付かないのである。なにぶん無芸なので,“小人閑居して不善をなす”あるいは“粗大ごみ”のたぐいになるが落ちである。悠々自適もいいが,せっかちといわれている私には,どう見ても似合わないようである。結局,研究を何とか続けるのが一番と思うようになった。もっとも,研究を続けたい理由には一般的な意味だけでなく,私の現在の研究状況によっている部分が多い。

 今年の『ISASニュース』2月号に「夜空は明るい!?」と題した記事を載せていただいた。簡単にいえば,我々がIRTSで観測した近赤外線領域での宇宙背景放射が宇宙最初の星の光ではないか,という話である。この観測は私が20年ほど前に思い付き,しこしことロケットやIRTSで観測を続けてきたものであるが,最近の他波長での観測によって宇宙最初の星と関連する新たな展開が始まっている。とはいえ,まだ結論が出ているとはいえない状況であり,新たな観測によってその正体の決着をつけたい,自分で始めた仕事を見届けたい,というのが私の望みである。

 まず,ASTRO-Fによる揺らぎの観測が最初の重要な仕事であり,どのような結果が出るか今から楽しみである。また,アメリカ,韓国との共同研究によるロケット実験計画がつい最近立ち上がり,具体的に進みつつある。さらに先には,ソーラーセイルミッションに赤外測光・分光器を載せ,背景放射に関する決定的な観測ができればと思う。こんな面白いことを途中でやめられるものか,自分でやりたい,というのが今の私の率直な気持ちである。

 しかし,定年後も今の研究を続けることは簡単ではない。理論なら一人で研究を進めることができ,お金もかからないが,実験,特にスペース実験を行うには,人もお金もかかるからである。アメリカでは定年後も活発に研究活動を行っている人が多いが,日本ではどこまでできるのかまだ分からないのが実情である。いずれにせよ,一人でできる仕事ではないので,若い人の後ろについて少しでも研究の進展に貢献できればと思っている。

 というわけで,定年後もしばらくは宇宙研をうろちょろすることになりそうである。「何しに来たの!」などと冷たくあしらわず,出入りを大目に見ていただければ幸いである。一方,ぼけて無能なのに研究にしがみつくのも,みっともないものである。そのときには「先生,最近ぼけているから,そろそろ研究から手を引いた方がいいんじゃないの?」と忠告していただければとも思う。

(まつもと・としお 赤外・サブミリ波天文学研究系) 



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