No.288e |
ISASニュース 2005.3 号外 No.288e |
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宇宙にかける夢松 本 敏 雄
名古屋大学から旧宇宙科学研究所に移ってから9年。まだはるか先と思っていた定年が,あっという間に来てしまった。ASTRO-Fが上がる前に定年になるのは何とも残念ではあるが,“身から出たさびだからしょうがないじゃないか”と自分で自分を慰めている。とはいえ,これまで無能な私を支えてくださった皆さま方に,まずはお礼を申し上げたい。 若いころ定年になったら何をするかをいろいろ考えたものだが,いざとなると,なかなか思うようにはいかないものである。これまでの仕事とさっぱり手を切って新たな人生の門出とするのは魅力的ではあるが,具体的に何をするかを考えると,それが思い付かないのである。なにぶん無芸なので,“小人閑居して不善をなす”あるいは“粗大ごみ”のたぐいになるが落ちである。悠々自適もいいが,せっかちといわれている私には,どう見ても似合わないようである。結局,研究を何とか続けるのが一番と思うようになった。もっとも,研究を続けたい理由には一般的な意味だけでなく,私の現在の研究状況によっている部分が多い。
まず,ASTRO-Fによる揺らぎの観測が最初の重要な仕事であり,どのような結果が出るか今から楽しみである。また,アメリカ,韓国との共同研究によるロケット実験計画がつい最近立ち上がり,具体的に進みつつある。さらに先には,ソーラーセイルミッションに赤外測光・分光器を載せ,背景放射に関する決定的な観測ができればと思う。こんな面白いことを途中でやめられるものか,自分でやりたい,というのが今の私の率直な気持ちである。 しかし,定年後も今の研究を続けることは簡単ではない。理論なら一人で研究を進めることができ,お金もかからないが,実験,特にスペース実験を行うには,人もお金もかかるからである。アメリカでは定年後も活発に研究活動を行っている人が多いが,日本ではどこまでできるのかまだ分からないのが実情である。いずれにせよ,一人でできる仕事ではないので,若い人の後ろについて少しでも研究の進展に貢献できればと思っている。
(まつもと・としお 赤外・サブミリ波天文学研究系) |
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