No.288e
2005.3 号外

ISASニュース 2005.3 号外 No.288e 


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+ Mロケットの明日を“読む”
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Mロケットの明日を“読む” 

高 野 雅 弘  


1994年6月,能代ロケット実験場。M-14-1 TVC大気燃焼試験を無事終えて。

 M-Vの初号機打上げから,はや8年が経過しようとしている。「宇宙研」(現JAXA宇宙科学研究本部とその前身,前々身)在籍期間の大半にわたり,固体推進技術にかかわる基礎研究と同実用機材の開発・運用に挺身してきた一実践的研究者としての“いささかの責任感”から,この誌面を借りて,M-Vの今後について「私見」を述べさせていただく。

 平成16年9月に総合科学技術会議が決定した「我が国における宇宙開発利用の基本戦略」は,M-Vの当面の継続運用を容認した上で,「国産固体ロケットシステム技術の維持とその自律性確保のため,M-VおよびH-IIA固体ブースタ関連技術の維持にとどまらず,『M-V低価格化』の方策を検討し,その所産の民間移管を考慮する」(要旨)として,M-V存続の可能性とその意義をうたっている。

 現在,世界で運用中の使い捨てロケットELV(Expendable Launch Vehicle)中,固体推進の機体は,地球・宇宙科学観測,各種理工学実験および低軌道コンステレーション市場対応に特化された需要を標的とする小型(LEO打上げ能力1〜2トン),および超小型(同1トン以下)クラスにのみ存在する。海外の運用機体のほとんどが既存ミサイル技術の利活用により超低価格であるのに比べて,「宇宙研」における関連工学分野の研究成果を集約したM-Vは,小型クラスの中で最高性能の機体ながらその“生い立ち”ゆえに高価格で,ESAが開発中である同規模のVEGAの予定価格と比べても2.5倍以上もする。

 一方,やがて到来する再利用型ロケットRLV(Reusable LV)時代に向けて,運用中のELVには,現行システムよりいっそう高い信頼性・価格効率と,より高い安全性・低公害性を備えたEELV(Evolved ELV)への脱皮が求められている。我が国の「基幹ロケット」であるH-IIA(大型クラス:GTO打上げ能力3トン超)は,一足先に,前身のH-IIに大掛かりな改修・改良を加えて,大幅な価格低減と信頼性向上を実現したEELVといえる。

 上記「基本戦略」の示唆するところを実現するためには,現行M-Vの継続運用中の今から,H-IIAにならって“M-VA”とも呼ぶべき,そのEELV版の再開発計画に着手しなければならない。この計画は,M-Vの改良でなく新規設計の心組みで,JAXA宇宙基幹システム本部の主導・管理のもと,「宇宙研」の知的支援を受けつつ,これまでに十分な力量を蓄えた関連企業の技術陣によって主体的に推進されるべきである。この間の事情を恩師・秋葉名誉教授は,「宇宙研文化の『芸術作品』として仕上がったM-Vが,倒木の上に新たな若木が育つように,『工業製品』として再生することを期待している」との比喩的表現で喝破しておられる。

 低運用価格の機体を実現するためには,全機性能を損なうことなく,全部品に過不足なくバランスのとれた品質・機能を整えなければならないから,開発期における手間と投資は惜しむべきでない。まず,第1段をH-IIA固体ブースタのEELV化に貢献した最新技術である炭素繊維強化プラスチック一体成型製ケースの高圧燃焼モータに換装し,これに連動して射点を種子島宇宙センターへ集約すべきことは,関係者の一致した意見である。その他,M-Vの機体構成・製造プロセス・運用システムの徹底的な見直しから,搭載電子機器の統合・簡素化などEELV化に資する多くの要改良点が見いだせるだろう。

 開発完了後の民間主体の運用体制についてはH-IIAの先例にならうとしても,我が国固体ロケット産業界の特殊性を考慮して,適正な責任企業の形態,官民の責任・リスク分担比率,規制緩和効果が生きる契約形態・調達方式などにつき,十分な事前検討が必要である。運用期における公的支援に多くを期待すべきでなく,新たな打上げ需要発掘のための自助努力によって,官需への依存度軽減に努めなければならない。

 関係各方面の努力と緊密な連携によってこの難問が解決され,再生M-VAが我が国第二の「基幹ロケット」として活躍する日の近からんことを祈る。

(こうの・まさひろ 宇宙輸送工学研究系) 



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