No.276e
2004.3 号外

ISASニュース 2004.3 号外 No.276e 


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使い古しの安全板 

山 谷 壽 夫  


入所直前

 皆さん,私はこの場を通じ,30余年にわたる在職の間,温かいご指導とお付き合いに支えられ,今日まで来られたことに対して,まず心からの感謝とお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。残すところ一月弱,自由テーマで“玉稿”をとのことでした。元来,物書域におらず,ザル碁における珠玉の一局なら今後創れるかもしれませんが,それとて相手の協力なくしてあり得ず,耐えられない思いでした。しかし熱心な説得や皆さんへの恩返しの一部にでもなればと思い,相成りました。



 私は1966年定員外職員を経て,1968年8月からの採用でした。重要な節々をきちんとかみしめることもなく,惰性の連続だったようにも思います。いま急きょ,それらに思いを巡らせ,駒場・淵野辺時代を三分割して述べればよいのかなと思うわけです。第一はNTC(能代ロケット実験場),第二はKSC(鹿児島宇宙空間観測所),第三は研究室関連であります。

 当時ロケット・宇宙航空関連は国策としての,待遇も含め,広く国民のために有効な一元組織であるべきという夢を持ち,幼い新参職員就職となりました。そこは観測部秋葉研所属,材料部岩間研預かりでした。ここを拠点に北へ南へ,渡り人となり歩を進めたのでした。

 NTCではMLS型ロケットで輝度・騒音・光学・真空槽/拡散筒圧・歪・温度・プルーム中和・粒子捕集などの計測班として参加させていただきました。また旧M系のスタンド班も経験させていただきました。X時に計測室停電という苦い経験や,スタンド定期検査でのワイヤグリースアップの砂混じり強風雨など,難儀だった事柄が浮かんできます。堅型LH2/LOX実験が行われるようになってからは,極低温較正・温度測定にも参加させていただきました。拡大研究室規模でノズルテスト・消滅型チャンバー・M-V用推薬燃焼安定性評価実験も行わせていただきました。1994年末から後はお目にかかっていませんが,着実()な施設充実がうかがえます。



 次にKSCについてですが,北は冬期,南は夏期の実験が多かったとの粗雑な記憶があります。師走(しわす)のNTCから駒場に,そして貸し切りバスで全打(全員打ち合わせ)に遅れぬよう内之浦へ大勢で乗り込み,新年を迎えたこともありました。リハーサルと成人式が重なり,L台地がにぎわうこともしばしばでした。こちらでのお付き合いはM-4S-3号機あたりまでかと思います。ロケット・OP中心に担当し,一時期タイマ班にも参加させていただきました。風観測用放球浮力には水素を用いていたこと,L型機の数々の教訓・成果などいろいろありますが,K-10C-2は不安感では極め付きでした。

 メインペイロードだけ飛び去った件ですが,第一監視所から降りて行きますと,ブースタ鏡板周りのIG脚線が燃え焦げており,蹴倒(けたお)されたブースターの方向は計器センタをにらんでいました。まさに危機一髪のところでブースタは着火を拒否したのでした。H2O2のリーク量やメインからのプルーム加熱・段間接手強度などの過多を想定すると,冷背筋状態でした。翌日は強風雨の中,漁船の協力も得て,監視所・CNセンターと連絡を取りつつ,都井岬右側海域の捜索でした。その日からしばらく,メインペイロードの手掛かりはなし。月日が流れ,後日,幸いCNの一部がトロールで引き揚げられたのでした。こうした経験を基礎に,いよいよL型第段水平打出しへの期待が高まっていくのでした。この願いを背負ったφ480はスペシャリストによって黒塗り(γペイント)化粧を施し,ロケット班全員が一刷毛(はけ)のコーティングをし,仕上げられていったのでした。φ480S(スフェア)はφ480S(サテライト)とし,名実ともに内外に産声を上げ,「おおすみ」となったのでした。



 研究室では,無駄メシと思われるかもしれませんが,PSポリマ,PUPB,……GAPHHTPIなどを粘結材とした,固体推進薬の基本的な燃焼性・物性に関する諸実験をやっていました。また,そのための組成・成分設計・合成・加工・実験・解析のたぐいも行いました。駒場中心としつつも,東大安全工学施設や細谷火工,ARCなども活用させていただきました。1998年5月,駒場完全退去後は,固体ロケットならスライバーの挙動域に入ったといって間違いありません。テールオフが長く恐縮至極です。幼いまま60に達し,今後は古典的ミニエコライフもどきへの挑戦を考えています。

 終わりになりますが,内外ともに激動と感じていますが,遅きに失した一元化に多方面にわたり光明を見いだせたらと思います。何より皆さんが健康で,おのおのの分野において成果を収められ,プロジェクトとしても平和に徹した新たな前進・発展を願っております。

 どうもありがとうございました

(やまや・としお 技術開発部飛翔体技術グループ) 



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