ひやりとしたこと
池 田 光 之
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KSC(内之浦宇宙空間観測所),資料館の緋寒桜の前で。 |
ロケット実験の現場作業は,危険と隣り合わせです。K-10C-2号機の打上げ,旧整備塔でのあわや大惨事となるオペミスなど,胸をなで下ろしたことがたくさんある中で,私一人だけがひやりとしたこともあります。
KSドームの天蓋(てんがい)の開閉確認は,全開すると黄色の回転灯が点灯するようになっていて,発射管制装置の中には組み込まれていません。いつものように着コネが巻き上がり,花火が上がってコントローラーがスタートし,第2リード線中継室の屋根の上で秒読みを聞きながら点火を待つばかりとなっているとき,私は回転灯がついていないことに気付きました。
「天蓋が開いていない! もう間に合わない!」
ロケットが天蓋にぶつかり,ドームが火の海になっている光景が,一瞬頭をよぎりました。次の瞬間,オレンジ色の光でわれに返りました。ロケットはいつものように炎とごう音を発しながら,大空の中へ消えていったのです。あのときは,ほんの一瞬でしたが,身が縮みました。ただの回転灯の球切れだったのです。
それから,私の不注意からヘリウムガスの減圧弁が破損し,部品があごを直撃,複雑骨折したときは,本当に不幸中の幸いだったと思います。もう少し角度が上だったら失明していたかもしれないし,もう少し下だったら頸動脈切断,出血多量で命を失っていたかもしれません。あのときは,当時のKSC所長である雛田元紀先生をはじめ,皆さまにご心配やご迷惑をかけ,本当に申し訳ありませんでした。
いま振り返ると,この37年間,L-4S-4号機,5号機,M-Vロケット1号機の打上げ,Mチャンバーの破壊試験,大気球の実験等々,ハラハラドキドキすることがたくさんありましたが,皆,良い思い出となっています。良き先生方や先輩,同僚に恵まれ,このような経験ができ,無事定年が迎えられることは,本当に幸運だったと思い,感謝の気持ちでいっぱいです。
本当にありがとうございました。
(いけだ・みつゆき
宇宙基幹システム本部 鹿児島宇宙センター内之浦宇宙空間観測所)
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