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No.251 |
第5章 宇宙の巨大構造と暗黒物質
ISASニュース 2002.2 No.251 |
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■銀河・銀河団の高温ガスの化学進化と暗黒物質○銀河団の化学進化銀河の集団である銀河団は,温度が数千万度に達する高温ガスで満たされていて,X線で明るく輝いています。高温ガスの主成分は水素ですが,X線の観測によって鉄などもわずかに含まれることが知られていました。これらのわずかな重元素(天文学では,ヘリウムより重い元素を重元素と呼びます)は,実は重要な情報を持っています。宇宙のはじまり(ビッグバン)では主に水素とヘリウムしか作られず,こうした重元素は長い年月をかけて星の中で生成されたものなのです。したがって重元素の量と分布を調べることによって,これまでどのような星が生まれて死んでいったのか,さらには銀河・銀河団がどのように進化してきたのかを知ることができるのです。
![]() 図45:銀河団の高温ガスに含まれる鉄(赤)と珪素(青)の水素に対する原子数の存在比(縦軸)。横軸は高温ガスの温度。 また,銀河団の大きさによらず水素に対する鉄の量はほぼ一定(太陽の3割)であるのに対し,珪素は小さな銀河団で少なくなっていることがわかりました。このことは,重い星が作った重元素と軽い星が作った重元素の混合比が銀河団の大きさで異なることを意味しています。それでは,なぜ小さな銀河団で珪素の量が相対的に少なくなっているのでしょうか。おそらく,小さな銀河団では重力が弱いために,生成された珪素を含むガスが銀河団から逃げてしまったのでしょう。 「あすか」の観測からはさらに,銀河団の内部でも重元素と水素の比が場所によって異なることがわかってきました。例えば鉄の存在比は,銀河団の中心部では大きく,銀河団の端では小さいのです。つまり,水素に比べて鉄は銀河団の中心部により集中して存在していることになります。これは,鉄を吐き出した銀河から鉄がまだ遠くに移動していないことをにおわせるとともに,確かに鉄が銀河団内部で生成されたことを意味しています。
○銀河団中心部に存在するやや温度の低いガスの正体銀河団の高温ガスは,銀河団内部でだいたい同じような状態にありますが,銀河団中心部だけは非常に特異な性質を示すことが「あすか」によって発見されました。図46は銀河団の中心部と端でのX線スペクトルを比較したものです。中心部では重元素の原子が発する輝線(特性X線)が強く見え,周囲に比べてやや温度の低いガスが存在していることと,鉄などの重元素の存在比が大きいことを示しています。(温度がある程度高くなると原子のまわりの電子がすべて剥ぎ取られてしまい,原子は輝線を発することができなくなるので,輝線が見えなくなります。)
![]() 図46:銀河団の高温ガスの中心部と端でのX線スペクトルの違い。中心部では輝線(特性X線)が強く,温度がやや低いガスが存在することを示しています。
○知られざる楕円銀河の素顔をX線で初めて発見高温ガスの重元素などの情報を用いた研究として,もう一つ「あすか」の重要な成果を紹介しましょう。銀河団には私たちの銀河のような「渦巻銀河」ではなく,単純な楕円型の「楕円銀河」が多く存在します。銀河団と同じように,楕円銀河にもX線で輝く約100万度の高温ガスが銀河の重力により閉じ込められています。楕円銀河は図47に示すように,可視光で同じように見えてもX線で見ると明るいものと暗いものの2種類に分かれることが知られていましたが,その理由はこれまで謎でした。「あすか」を使って高温ガスの温度と重元素の量を測定した結果,次のようなことが初めてわかりました。
![]() 図47:楕円銀河M86とM84の可視光の像(左)とX線像(右)。可視光では同じ明るさの2つの楕円銀河が左右に見えますが,X線での明るさは大きく異なっています。写真の一辺は40分角で,およそ560万光年に相当します。 (深沢泰司,池辺 靖,松下恭子) |
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