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宇宙科学の最前線

SMILESがもたらした科学成果と課題 JAXAプロジェクト研究員 今井弘二

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次期観測計画に向けて

 大気観測衛星の常識を超える最高精度の観測によって、大気科学にさまざまな新知見をもたらしているSMILESですが、2010年4月21日にサブミリ波受信系の一部の機器に不具合が発生し、残念ながら観測の停止を余儀なくされました。その高精度観測を継続すべく、次の観測計画が立案されています。

 その測定機器の仕様では、微量成分と同時に温度の高精度な測定が優先されています。それは、地球大気を理解する上で熱構造を知る必要があり、また観測された放射強度を処理して微量成分の高度分布を導出するためにも、温度の情報が必要となるからです(※4)。当初、SMILESは、観測した放射強度をもとに、オゾンの高度分布を下部成層圏(高度15km)から上部中間圏(高度80km)まで導出することを目標としていましたが、我々の想像を超えるSMILESの高精度な観測は、より高高度(SMILES Level 2(※4)のver.3.0では高度100km)まで導出することを可能としました。しかしながら、その高度での温度情報がなかったため、データ処理に多大な労力を費やした経緯があります。微量成分と温度の同時測定は、高精度な観測データを十分に引き出すための必須の要件なのです。

 SMILESですでに実証された技術を基盤とした、より高精度な観測データは、宇宙から私たちの大気を見守るだけでなく、対流圏起源物質の成層圏への流入過程、中層大気の諸過程が気候変動に及ぼす影響、太陽活動と超高層大気との相互作用などの科学研究に用いられ、オゾン層の将来予測のために化学輸送モデルが参照する基礎データとしても広く活用されることが期待されています。

(いまい・こうじ)


(※4) 放射強度からの高度分布の導出:SMILESが観測した放射強度は、地上のデータ処理システムによって較正された後、さらに高次のデータ処理システムによって微量成分の高度分布(Level 2データ)が導出される。

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