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宇宙科学の最前線

銀河団の元素組成は一様だった JAXAインターナショナルトップヤングフェロー Aurora Simionescu

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 星は、私たちが普段考えているよりもずっと深く生命とつながりを持っています。我々の身の回りのすべての物、そして我々の身体さえも、はるか昔に星の中心部で合成された元素からできています。我々が吸い込む酸素や、海岸の砂に含まれるシリコン(ケイ素)など、炭素より重い(※1)すべての元素は、星のライフサイクルに端を発しているのです。

 星は、これらの元素を中心部の核融合反応でつくり出します(このプロセスこそが、星を光らせるエネルギー源でもあります)。ほとんどの星は水素の核融合反応でヘリウムを合成し、さらにヘリウムを炭素や酸素に変え、最期は「炭素・酸素白色矮星」として、その一生を終えます。白色矮星とは、原子が本当にぎっしり詰まったボールのようなものです。その中では、いわゆる電子の縮退圧(※2)が重力を支えています。つまり、電子が近づけない限界距離があり、それが重力とバランスを取る反発力を生み出しているのです。ところが、数では全体の1%程度の最も重い星(※3)については、重力が電子の縮退圧に勝ります。これらの星では、炭素や酸素が次々に、ネオン、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、硫黄、アルゴン、カルシウム、ニッケル、そして鉄へと変換されていきます。この元素合成プロセスは、最後に星の外層を吹き飛ばす大爆発によって終焉を迎えます。こうして死にゆく星は、爆発後の数日間極めて明るく輝きます。時にはそれが属する銀河全体よりも明るくなることさえあり、「超新星」と名付けられています。最も重く明るい星では、水素から猛烈な勢いで重い元素へと合成が進むため、燃料をあっという間に使い果たします。この種の「重力崩壊型」超新星爆発は、星が生まれてから数百万年程度の比較的短時間で起こります。

 星が超新星爆発に至るには、もう一つルートがあります。これは、白色矮星が伴星を持っているときに起こるものです。伴星の表面の物質が白色矮星に徐々に滴り落ち(降着といいます)、重力の圧搾に電子の縮退圧が耐え切れる限界まで白色矮星を太らせます。限界に達すると、炭素や酸素からニッケルや鉄までの重い元素への合成が一気に進みます。それによって開放された核エネルギーが白色矮星全体を爆発に至らしめ、宇宙空間に元素をまき散らします。これを「Ia型」もしくは「熱核反応型」超新星と呼びます。この仕組みでは、まず低質量星が進化して白色矮星になり、ここに伴星から質量が降着しなければなりません。従って、超新星爆発までに重力崩壊型超新星より長い時間がかかると考えられています。

 重量崩壊型超新星とIa型超新星では、結果として宇宙空間に放出する元素の組成比パターンが大きく異なります。前者は、酸素やマグネシウムといった比較的軽い元素を多量に生成しますが、後者は、主に鉄やニッケルといった重い元素を生成します。シリコンや硫黄といった中間の質量数の元素は、どちらでも同程度つくられます。そこで我々は、宇宙の元素組成比を測定することで、生命の進化に必要な元素が、いつ、どこで、どのように生成されたのか、その履歴を明らかにできるのではないかという期待を持っています。初期宇宙は、今日とまったく異なるものだったのでしょうか? 我々とまったく異なる元素組成比を持つ場所が宇宙のどこかに存在しているのでしょうか?



(※1) 炭素より重い元素:ここでは質量数(大まかには原子に含まれる陽子と中性子の数の合計)の大きいものを「重い」という。

(※2) 電子の縮退圧:星の中心部など超高密度の環境では、複数の粒子(白色矮星の場合は電子)が同じエネルギー状態を取れないという「パウリの排他原理」により、エネルギーが高い状態を取らざるを得ず、そのため圧力が上昇する。

(※3) 最も重い星:太陽の8〜10倍よりも重い星である。

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