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宇宙科学の最前線

観測ロケット実験を革新する再使用観測ロケット 宇宙飛翔工学研究系 准教授 野中 聡

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観測ロケット実験の革新と利用の活性化

 宇宙科学研究所では、天体観測やプラズマ物理観測、超高層大気観測などの理学観測、微小重力を利用した実験や工学的な技術実証を行う目的で、小型の観測ロケットを打ち上げています。この小型ロケットは衛星を地球周回軌道に投入するための大型のロケットとは異なり、打上げ後、約150km(S-310)から約300km(S-520)程度の最高高度に達し、海上に着水するまでの弾道飛行中に大気観測などの実験を行います。人工衛星には低過ぎ気球には高過ぎる高度で、「その場」での観測を可能にするのが観測ロケットです。現在、観測ロケットは毎年2機程度打ち上げられており、実験提案から打上げまで短期間で実現可能で、理学・工学それぞれの実験でさまざまな研究成果が挙げられています。また、アビオニクス(搭載電子機器)の統合や新たな姿勢制御装置の搭載など、観測ロケット自体も最新の技術を取り入れて発展しています。『ISASニュース』2012年9月号に観測ロケットによる最近の高層大気研究について、2012年10月号に大気圏突入機の実証試験について、それぞれ紹介されていますのでご覧ください。
観測ロケットを用いた超高層大気領域の研究
柔らかい大気圏突入機の実現に向けて 〜シイタケ型実験機はいかにしてつくられたか〜


 今、私たちが毎年打ち上げている観測ロケットは、1回だけしか使うことができない「使い捨てロケット」といわれるものです。一度飛ばすと高価な観測機器と共に海に落下し、もう二度とお目にかかることができないのが現状です。観測機器の回収は技術的には可能で、これまでにも行ったことはありますが、結構な手間がかかります。打上げのたびにロケットと観測機器を新たに製作する必要があるため、毎年限られた数しか打ち上げることができません。

 観測ロケットの需要はどのくらいあるのでしょうか。大気物理や微小重力科学の研究テーマとして利用需要を調査すると、5年間で50回以上の実験要望があります。つまり1年間に10回程度の実験が求められることになります。年に2、3回という現状の観測ロケットでは、コストや時間の点ですべての要望に応えるのは難しい状況です。さらには工学的な技術実証やライフサイエンスなど、実はもっとたくさんの利用需要が眠っているかもしれません。

 観測ロケットとしての技術的な要望もたくさんあります。大気などのサンプル採集や観測機器の回収、微小重力実験を行った材料の回収などは、研究者から強い要望があります。観測する方向を自在にコントロールしたい、もっとゆっくり飛んでほしい、低く飛べ、高く飛べ、大容量のデータ蓄積とその回収が必要だ、打上げ直前まで観測機器にアクセスしたい……。ロケットを利用する側の研究者の皆さんは、とてもわがままです。このような状況の中、現在の観測ロケットにちょこっと手を加えて飛ばしているだけでは飛躍的な変化は期待できません。需要や技術的な観点での観測ロケットによる実験環境の革新と利用の活性化を推進することが、私たちロケットの研究者に求められているのです。

観測ロケットが「再使用」できるようになれば……

 前置きが長くなりましたが、観測ロケットによる研究をもっともっと活性化させるためには、その運用コストを大幅に削減して実験環境の革新を図り、宇宙実験参加の敷居を飛躍的に下げる必要があります。そのためには、やはり今の使い捨てのロケットでは限界があり、観測ロケットを「再使用」できるものにすることが、ユーザーの要望に応えるための最良の策と考えられます。我々は、繰り返し飛ばすことができるこのロケットを「再使用観測ロケット」と呼んでいます。

 まず私たちが目標とする再使用観測ロケットの性能は、S-310に相当する到達高度100km以上に100kgのペイロードを打ち上げ、打上げ地点に帰還するというものです。これを同じ機体で100回繰り返し、打上げの頻度としては年間10回、1シリーズ(約1ヶ月程度)に5回の打上げを年2シリーズ実施することを考えています。さらに、最短で24時間のターンアラウンド運用(今日打ち上げて明日また打ち上げる運用)も可能なシステムとする計画です。観測機会が飛躍的に増えるだけでなく、(1)ロケットの軌道や姿勢の自由度が高い、(2)高高度での亜音速飛行や準静止状態ができる、(3)観測機器の回収とその繰り返し使用、といったこれまでの観測ロケットにない特徴を持たせることにより、質的に大きく異なる実験環境を実現することが可能です。

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