宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > 宇宙科学の最前線 > 観測ロケット実験を革新する再使用観測ロケット

宇宙科学の最前線

観測ロケット実験を革新する再使用観測ロケット 宇宙飛翔工学研究系 准教授 野中 聡

│3│

将来の宇宙輸送システムと水素社会への貢献

 将来の宇宙輸送システムの究極のゴールは、地球の周回軌道に単段式で人や物を運ぶことができる宇宙往還システム(SSTO)を開発し、それを毎日あるいは1日複数回運用して、高頻度に宇宙へアクセスすることであると考えています。その実現のためには液体水素/液体酸素による高性能な推進システムが必要不可欠であり、再使用可能なロケットシステムで極低温の液体推進剤を取り扱う技術を獲得することは、将来の目指すべき宇宙輸送システムを構築する上でとても重要です。再使用観測ロケットの実現は、将来の高性能な宇宙輸送システムに共通で不可欠な技術の獲得につながるとともに、再使用できる宇宙システムを実際につくる、観測ロケットとして実利用する、ということを通じて「再使用」のメリットを広く世の中に認識してもらうことで、次のステップへさらに加速させることができると考えています。

 また水素を使うロケットの研究の中には、クリーンエネルギーサイクル、水素の製造、貯蔵、安全監視など、全地球的なエネルギー問題や環境問題の解決のための水素エネルギー社会のインフラ構築への直接的な貢献につながる共通の課題が数多くあります。再使用観測ロケットの研究開発は、これら水素に関わる技術課題の解決にもつながり、ロケットという極限的な環境での水素の取り扱いに関する技術革新と、この革新がもたらす水素エネルギー社会のインフラ構築へのスピンオフという切り口で多くの接点を共有しつつ、社会の進歩に貢献することができると考えています。

図1
図1 機体形状を設計するための風洞試験
風洞がつくり出す気流でロケットが飛ぶ環境を模擬し、機体にかかる空気力を計測してロケットの形を考える。


図2
図2 液体水素/液体窒素のスロッシング可視化試験
ロケットが飛んでいる間にタンクの中の液体推進剤がどのような動きをして、タンクの圧力や温度がどのように変化するかを調べる。


図3
図3 将来の宇宙輸送システムのあるべき姿
人や物を載せたロケットが次から次へとスペースポートから宇宙に向けて飛んでいく……。


(のなか・さとし)



│3│