宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > 宇宙科学の最前線 > 観測ロケット実験を革新する再使用観測ロケット

宇宙科学の最前線

観測ロケット実験を革新する再使用観測ロケット 宇宙飛翔工学研究系 准教授 野中 聡

│2│

 このような再使用観測ロケットが持つ特徴により、大気微量成分/エアロゾル/微粒子の観測や大気および微粒子の継続サンプリングができるようになれば、高頻度かつ世界の多地点で地球大気環境の時間的・空間的な変化を精度よく測定することが可能となり、地球環境のわずかな変動を早期に捉えて、地球環境モニターとして画期的な成果をもたらすことが期待できます。また、ライフサイエンスや材料科学などの微小重力環境を利用した研究においては、再使用観測ロケットによって実現できる継続的な繰り返し実験機会と実験機器の容易な回収、良質な微小重力実験環境の提供などにより実験環境の質的・量的な革新が期待され、飛躍的な研究の活性化と成果創出をもたらすことができると考えられます。そのほかにも、実際に「再使用」できる観測ロケットを繰り返し打ち上げることで世の中に認識され、宇宙実験へ参入するためのハードルが劇的に下がることで、ロケットを使った新たな研究の創出など観測ロケットユーザーが多数現れることが期待されます。現在でも多くの成果を挙げている現行の観測ロケットに加えて、再使用観測ロケットを頻繁に運用することにより観測ロケットによる研究が飛躍的に発展すると考えています。

再使用観測ロケットの技術実証

 では、再使用できる観測ロケットはすぐに開発できるものでしょうか。再使用観測ロケットは、(1)繰り返し飛行運用する、(2)帰還飛行して着陸する、(3)故障しても安全に帰還する、などの点でこれまでの使い捨てのロケットとシステムの形態が大きく異なります。再使用型の観測ロケットを実際につくるためには、従来のロケットにはない技術的な課題をまず解決しなければなりません。そこで、いま私たちが取り組んでいるのが、再使用観測ロケットを実現するために必要な技術の実証です。

(1)繰り返し飛行運用する
 エンジンを100回再使用するという技術課題があります。再使用観測ロケットでは推進性能や将来性から、推進剤として液体水素と液体酸素を使う液体ロケットを考えています。そのエンジンではロケットを加速させるために水素と酸素を混ぜて高温高圧で燃焼させることから、飛行のたびに過酷な条件に耐えなければなりません。そこで再使用型のエンジンをつくって繰り返し使用するための技術実証を、角田宇宙センターで進めています。観測ロケットのための再使用エンジンは、性能より再使用性や着陸のための推力制御機能を優先し、運用の手間やコストを減らすために点検や部品の交換を容易にするなど、これまでのエンジンとは異なる視点で設計されています。


(2)帰還飛行して着陸する
 これまでの使い捨てロケットでは帰ってくることを考えなくてよかったのですが、帰ってくるためにはどんな飛び方をすればよいかとか、機体をどんな形にしたらよいかなどを新たに考えなければなりません。現在これらを含め機体システムの設計を進めており、ロケットの形を決めるための風洞試験や小型の実験機による飛行実証を行うための準備を進めています。また着陸の際には、着陸前にエンジンを再起動してその推力により垂直に着陸することを考えています。垂直に離陸して垂直に着陸する、垂直離着陸型というシステムです。そのための技術として、帰還飛行中にタンクの中の液体推進剤がどのような挙動をするか、タンクの圧力がどのくらい変化するかなどを調べ、エンジンの再起動に必要なタンク内部に搭載する装置を設計しています。


(3)故障しても安全に帰還する
 これまでのロケットでは例えば飛行中にエンジンが故障した場合、その後の飛行を諦めてロケットを安全に破壊するための指令を送る、というようなやり方をしていますが、再使用型のロケットは帰ってくる機能があるのですからそんなことはしません。故障を検知してロケットを安全に帰還させる、というやり方です。そのような仕組みを持つシステムを、故障許容システムといいます。再使用観測ロケットではエンジンを4機搭載していて、仮に1エンジンが故障した場合でも残りのエンジンで飛行することが可能なように設計しています。また故障を検知するための技術も必要です。水素を使うロケットでは、もし水素が漏れた場合、そのままにしておけば着火して大事故につながる可能性があります。それを防ぐには、水素を検知するための搭載型の水素センサーが必要です。水素の漏洩を検知して漏れ箇所を特定し、必要な処置を行った上で安全に帰還するという、ヘルスマネジメント機能を持った故障許容システムを構築するため、搭載型の水素センサーの開発と機体内でのその配置、安全に帰還するためのロジックの検討などを行っています。


│2│