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宇宙科学の最前線

化合物半導体を用いた高機能集積回路の開発と宇宙応用 宇宙機応用工学研究系 教授 川崎 繁男

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 宇宙用を含むワイヤレス通信機器では、ハードウェアの低コスト化は重要な研究開発の一項目です。その解決策の一つに集積回路による省面積化・高機能化が挙げられます。特に要となる高出力や低雑音の増幅回路には、高機能集積回路技術の適用が必須となります。

 我々の研究グループでは、化合物半導体モノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)技術を用いて小型モジュールの高機能化を達成しました。これらについて小さな規模のデバイスからそれらを用いた電子機器まで、宇宙用も含めて解説し、その成果を述べたいと思います。

化合物半導体とマイクロ波集積回路

 スマートフォンやコンピュータの中で電波やケーブルを使ってデータ通信するための重要な部品として、コンデンサや抵抗、コイルのほかにトランジスタというものがあります。これらを小さなサイズでまとめたものを集積回路(Integrated Circuit:IC)と呼んでいます。これまでトランジスタやICの材料には、シリコン(Si)が多く用いられてきました。しかし、動画や多量のデータを送るには高速の素子(デバイス)やそれを用いたICが必要です。これらに用いられる材料が化合物半導体で、ガリウムヒ素(GaAs)、インジウムリン(InP)、窒化ガリウム(GaN)が有名です。

 これら化合物半導体を用いたデバイスは、その内部で動く電子のスピードが非常に速く、高速・高周波で回路を動作させることができ、高性能デバイスや回路が実現できます。ただ、それらの半導体はSiのように単分子ではなく、異種の分子の結合でつくられるため、そのデバイスの製法や抵抗などの素子との集積化には高度な技術が必要となります。

 Siや化合物半導体の上に、抵抗やコンデンサ、コイルなどの素子を作製し信号を伝えられる線路で結ぶと、非常に高い周波数の電波や超高速通信ができる小型のICが出来上がります。これをモノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)と呼んでいます。MMICの構造は、純粋なSiや不純物が極力少ない化合物半導体でつくられる半絶縁性基板(完全な絶縁体ではないが、金属に比べて抵抗率は高い)の上に、エピタキシャル層と呼ばれる不純物を含んだ電子が走行(伝導)する領域やこの電子が伝導するために必要な電子を供給する層、さらに電極のための金属パッドおよび薄い絶縁膜層が積み重なってできています。

 また、このエピタキシャル層には電子露光技術を使って、回路パターンが0.1μm程度の線幅から、100μm程度の四角い金属パッドまでを形成し、低周波の抵抗やコンデンサ、コイルに当たる素子を集積化していきます。これらの技術を使って1mm四方以下の電界効果トランジスタ(FET)から、5mm四方のマイクロ波の増幅回路などをつくっています。最近は、非常に小さいアンテナ(例えばパッチアンテナ)も、このMMICに集積化しようとしているのですが、これがいわゆるワンチップ送受信機です。

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