宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > 宇宙科学の最前線 > 化合物半導体を用いた高機能集積回路の開発と宇宙応用

宇宙科学の最前線

化合物半導体を用いた高機能集積回路の開発と宇宙応用 宇宙機応用工学研究系 教授 川崎 繁男

│2│

高機能MMICの開発

 MMIC技術を使って省面積化が実現すると低コスト化が実現しますが、実はこれに加えて高機能化も実現できるようになります。それは、小さな回路の中では、情報や電力を効率よく伝えることができるようになるからです。我々の研究グループは、化合物半導体MMIC技術を用いて高機能小型モジュールを実現してきました。さらに、応用として移動体通信や宇宙通信において、電波の領域の人工媒質(結晶)であるメタマテリアルを含む能動回路や高性能小型通信機の試作を行い、化合物集積回路の応用展開を広く行っています。

 通信機器において、一般の増幅回路としては高出力増幅器(HPA)と低雑音増幅器(LNA)があります。ここ10年ほどの世界的傾向として、ファブリケーションレスの回路モジュール開発が盛んになってきており、マイクロ波分野でもデバイスや回路を外部の企業に委託して試作するファンダリーサービスが行われるようになってきています。しかし、ファンダリーサービスは設計法やできたICの性能まで保証するものではなく、我々研究グループが持っている独自の高精度な設計法とその検証技術を用いなければ、世界トップクラスのMMICをつくり出すことはできません。図1に示したMMICは、試作したKu帯(12GHzから18GHzの周波数帯)で動作するMMIC HPAとMMIC LNA(サイズは2つともほぼ同じで、2.5mm×3.0mm程度)です。モノリシック化しない場合と比較すると性能は同等かそれ以上で、大きさ・重量は大ざっぱに言って100分の1以下です。HPAはこの大きさで出力400mW程度、LNAは10〜14GHzで雑音指数1.7dB(0.96dB@10GHz・113K)を達成しました。これらの性能は、世界トップクラスです。

図1
図1 Ku帯 GaAs MMIC HPAとMMIC LNA


 さらに新高機能増幅器として、信号を後ろ向きに伝搬させることができる特徴を持つメタマテリアルと、半導体増幅回路を多段に組み合わせた分布型増幅器と結合した周波数変換器(ミキサ)を、GaAs MMIC技術を用いて試作しました。これを図2に示します。上部はメタマテリアル伝送線路、下部は多段のFET増幅機能付きミキサで、両方のインピーダンスをうまく調整して構成されており、非常にコンパクトな構成で、効率よく増幅器として、またミキサとして動作します。

図2
図2 メタマテリアル機能を持つ分布型増幅器・ミキサ


│2│