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宇宙科学の最前線

自然が物理学の願いをかなえるとき インターナショナルトップヤングフェロー Dmitry Khangulyan

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 理学が何であるかは誰もが知っていますが、「物理学者は何をしている人々なのか?」という問いに答えるのは簡単ではありません。まず思い付く答えは、「自然界のありとあらゆる姿を研究する人」ということかもしれません。確かにこの答えは正しいのですが、物理学の真髄を伝えてはおらず、物理学がいかに発展するかを理解できないという点で意味のないものです。物理学の発展は、「光」の概念がどう変わってきたかを例にして説明することができます。

 昔の科学実験によって光は波であることが明らかになり、それが電磁波という考え方につながりました。しかしその後、光はある条件下では粒子のように振る舞うことが発見され、この粒子は「光子」と名付けられました。「波」と「粒子」という正反対の性質は量子論の枠組みの中で見事に統一されましたが、2つの概念は現代物理学においてもいまだに広く用いられ続けています。

 それは、なぜでしょうか? 波と粒子の二面性が、あまりに深淵で難解な性質だからでしょうか? そうではありません。「波」あるいは「粒子」という概念がそれぞれ、(相対論的量子論における説明に比べると)光のさまざまな性質を極めて簡単に説明できるからです。すなわち、これらの概念は有用な「物理モデル」なのです。この例から非常に重要な結論が得られます。つまり物理学はある単純化された表現方法で「自然」を理解しようとするものであり、物理学者はそのための適切な表現方法、すなわちモデルを探しているのです。

 このよいモデルを探すという手法は、非常に基本的なものであり、さまざまな実体(「波」「粒子」など)を説明するためだけでなく、さまざまな物理現象を取り扱うときにも欠かすことができません。例えば、「理想的な」「熱い」「冷たい」「量子」といった言葉すべてが、ある意味で物理的モデルです。こうしたモデルの追求によって、我々のまわりで起こる現象の数学的記述が可能になり、その結果、理論的な予測と観測データとの比較ができるようになります。

 光における粒子と波という2つの概念が量子物理学という表現方法を生み出したように、新しい実験結果はしばしば物理モデルのさらなる進展を促します。このように物理学は、観測データの収集、妥当と思われるモデルの提案、提案されたモデルに対するほかの実験による検証を繰り返すことによって発展していきます。理想的には、この過程で多くのモデルが却下され、残った少数のモデルがさらに発展していくのです。これはごく当然な過程であり、詳細な実験研究なしに正しいモデルが提案されることはほとんどありません。

 しかし、この原則には興味深い例外があります。それは非常に単純化されたモデルによく合う物理的性質を持つ天体現象で、「パルサー」として知られています。

 パルサーとは高速で自転している中性子星で、超新星爆発の後に残される天体です。星が一生を終えたときにできる天体は、通常2種類あると考えられていました。この分野の先駆者、チャンドラセカールによれば、星の中心核の質量が小さい場合、その星は白色矮星となります。一方、星の中心核が十分重い場合は、超新星爆発を起こしてブラックホールができるとされています。1930年代の後半にオッペンハイマーとボルコフは、白色矮星でもブラックホールでもない第三の結末があることを指摘しました。つまり、星の中心核がほどほどに重い場合は、つぶれてブラックホールになるほどではないが、残された天体の内部の圧力が高いために電子と陽子が融合してしまう可能性があるというのです。こうして中性子から成る極めて小さな星、中性子星ができるはずだという予測がされました。

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