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宇宙科学の最前線

「あかり」が検出した謎の遠赤外線放射とは? 赤外・サブミリ波天文学研究系 助教 松浦 周二

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 2011年8月10日、宇宙科学研究所ホームページのトップに「『あかり』宇宙からの謎の遠赤外線放射を検出!」※1という見出しが踊りました。何やら怪しげな研究をしているのかといぶかしむ向きもあろうかと思いますが、れっきとした科学成果です。本稿では、このニューストピックに関して、もう少しだけ詳しく解説させていただきます。

赤外線の宇宙背景放射

 このニューストピックの概略は、赤外線天文衛星「あかり」が遠赤外線で宇宙探査をしたところ予想外に大きな宇宙背景放射が見つかった、というものです。宇宙背景放射とは、遠方宇宙からやって来る一様に広がった淡い光です。知られた天体の向こう側にあるという意味で「背景放射」です。

 宇宙背景放射として最も有名なものは、ビッグバン直後の灼熱の宇宙が出した光の名残である、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)です。これは、名のごとくミリ波〜マイクロ波の波長(1〜10mm)の電磁波として、地上からある程度観測できます。CMBは、宇宙に広がるあらゆる波長の電磁波の背景放射エネルギーの大部分を占めています(図1)。宇宙最初の光がこの世で最も明るいのは、宇宙の創成を探究する科学者にとって、信じられないほどの幸運といえます。

図1
図1 あらゆる波長(周波数)における宇宙背景放射の明るさ
数字は、各波長の背景放射成分の明るさについて、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)を1000としたときの積分強度。宇宙初期の天体形成に関わる赤外線の宇宙背景放射(CIB)は2番目に明るい。
(H. Dole et al., A&A 451, 417-429 (2006)を改変)


 では、2番目に明るいものはといえば、もう少し波長の短い(1〜100マイクロメートル[μm])赤外線の宇宙背景放射なのです。後で述べるような宇宙進化の解明を目指して、これを詳しく調べない手はありません。しかし、赤外線の宇宙背景放射の明るさや起源は、先のCMBほどはっきりとしていません。その一因は、太陽系や我々の銀河系、さらには銀河系以外の銀河まで、前景にあるあらゆる暖かい天体は強い赤外線を放射するので、背景放射と区別するのになかなか苦労することです。また、赤外線の宇宙背景放射は決して地上からは観測ができないため、観測の機会が少ないことも理解を遅らせる一因となってきました。大気が宇宙からの赤外線をすべて吸収してしまうため、明るさを正確に測定するには宇宙へ出るほかないのです。そこで、我らが「あかり」の登場となります。

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