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宇宙科学の最前線

相対論的ジェットの理解に向けて Understanding Relativistic Jets インターナショナルトップヤングフェロー Lukasz Stawarz

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 宇宙ジェットとは、中性子星やブラックホールのような、コンパクトで物質が降着している天体によって生成される、細く絞られた磁化したプラズマの流れです。活動銀河の中心に存在する超巨大ブラックホール(SMBH:Supermassive Black Hole)からは、特に目立ったジェットが観測されており、本稿ではこのようなジェットに着目します(図1)。

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図1 ハッブル宇宙望遠鏡で見たM87の中心核から伸びるジェットの可視光イメージ
1918年にH. Curtisによって初めて発見され、中心核から伸びる「奇妙な一直線の光」と表現された。(J. A. Biretta et al.)


 まず、ブラックホールには、星の最期の崩壊によってつくられる恒星質量ブラックホールと、物質の降着やブラックホールの合体によって成長・形成されていくさらに重いブラックホール(SMBHを含む)があります。我々の銀河系をはじめ多くの銀河の中心には、質量(M)が太陽質量2×1033g(Mʘ)の100万〜100億倍のSMBHが存在することが知られています。天体によっては、その質量が10%以内の精度で分かっています。現在のところ、すべての銀河は中心にSMBHを有しており、特に活動銀河と呼ばれるものはSMBHへの降着率が高いものと考えられています。また、ブラックホールの周囲には降着円盤が形成されており、円盤の周囲には、温度が高く磁化したコロナが存在し、ディスク磁気圏を形成していると考えられています。その外側はガスやダストが取り囲んでおり、これらすべての成分が、活動銀河核(AGN:Active Galactic Nucleus)からの放射として観測されます。

 ジェットはさまざまな質量のブラックホールに付随して観測されています。実際、連星系の恒星質量ブラックホールや超新星爆発でブラックホールが生成される際に、相対論的ジェットが短時間だけ生成されます。その中でも、SMBHと相対論的ジェットの関連は特に明快で、さまざまなタイプのAGNから定常的にジェットが出ている様子が直接見えています。このような構造は、おとめ座銀河団(Virgo cluster)の中心に位置するM87から、可視光観測によって最初に発見されました(図1)。このように、ジェットを持つブラックホールに共通な点は、そのサイズではなく、質量降着の源が存在するという点です。連星系ブラックホールでは、伴星から質量が供給されますし、超新星爆発では、星の内部物質が中心に形成されるブラックホールに落下して供給されます。SMBHの場合は、降着の開始(すなわちAGN活動)の引き金となるのは銀河同士の合体と考えられます。

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