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宇宙科学の最前線

相対論的ジェットの理解に向けて Understanding Relativistic Jets インターナショナルトップヤングフェロー Lukasz Stawarz

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 ほかの観測上重要な発見は、ジェットの有無がブラックホールの質量や降着率の違いで区分されるものでなく、しかし一方では、激しく降着しているブラックホールだけが顕著なジェットの活動性を示すという点です。ここで「顕著なジェット」とは、ほぼ光速で吹き出す相対論的プラズマの流れ(アウトフロー)のことで、電波からガンマ線領域において非熱的な放射を特徴とします。実際、絞られていない非相対論的なアウトフローは、すべてのAGN、そしておそらく、すべての降着ブラックホールに共通する性質のようです。一方、相対論的ジェットは比較的まれな現象です。では、なぜいくつかの降着ブラックホールだけが相対論的ジェットを持ち、それ以外のものは持たないのでしょうか。この問題に答えることは容易ではありません。というのも、どのようにジェットが生成されるかが、いまだによく分かっていないからです。上に述べたように、降着円盤の存在は極めて重要です。では、ジェットは単に降着円盤の内側・表面から、角運動量と物質を運ぶ円盤風の特殊な形態として噴出されるのでしょうか。もしそうなら、ブラックホールそのものはジェット生成に直接関与しておらず、単に降着物質を引き付けるコンパクトで重い天体として働いていることになります。

 降着円盤からジェットを生成するモデルは比較的よく確立されています。降着物質からエネルギーと角運動量を抜き取るのは、ディスク表面からコロナに伸びているポロイダルの開いた磁力線であることが示されています。そのような開いた磁力線は、降着物質とともに回転します。プラズマは、回転しているワイヤーに沿って飛ばされるビーズのように、ディスクから磁気圏へ遠心力によって放出されます。あるところで、放出されるプラズマは磁力線をねじり、スパイラル構造の磁力線を形成します。磁力線の張力と圧力勾配によって、プラズマは次第にコリメートされディスク表面と垂直方向に加速されます。その結果、ディスクから双方向に噴出するジェットが形成され、磁気エネルギーをプラズマの運動エネルギーに変換します。

 ここで述べたモデルは直観的で分かりやすいですが、少なくともAGNにおける相対論的ジェットの生成には、あまり関与していないようです。まず、磁場によるコリメーションは相対論的な場合にはそれほど効果的でないことが、ごく最近分かってきました。効果的なコリメーションがなければ、アウトフローの加速も効率が良くないでしょう。また、ここで述べたプロセスは普遍的に見えるので、もしある天体で起こっていれば、ほかのすべてでも起こっていると考えられます。言い換えると、もしジェットが降着円盤から出ていれば、すべての降着ブラックホールはジェットを持つことになります。しかし、観測はそうはなっていません。この事実は、降着円盤から駆動されるアウトフローはジェットにはなれず、準相対論的な円盤風をつくるにすぎない、ということなのかもしれません。実際、円盤風はAGNの共通の性質であるようです。もしそうなら、ジェットの生成メカニズムはいまだよく分からないことになります。以下では、ジェットのエネルギーを直接ブラックホールから引き抜く、ほかのメカニズムを考えてみたいと思います。

 電荷を持たないブラックホールの性質は、その質量Mと角運動量Jの2つのパラメータのみで記述することができます。ブラックホール質量を、「重力半径」と呼ばれる長さの単位で表すとrG=GM / c2(Gは万有引力定数)となり、ブラックホールのスピンと質量の比も、長さの単位でa=J / Mcとなります。最大回転しているブラックホールはJmax=GM2 / c、すなわちa=rGと表せます。事象の地平線(シュワルツシルト半径)はこの2つのパラメータによって、rS=rG+(rG2−a21/2、「静止限界」と呼ばれる距離は、rC=rG+(rG2−a2 cos2 θ)1/2(θは方位角)と定義されます。事象の地平線の外側のrS<r<rCの領域はエルゴ領域(ergosphere)と呼ばれます。この領域にいる観測者は、静止系と比較してブラックホールと同様に回転しなければなりませんが、エルゴ領域の外側の世界とは情報の交換が許容されます。一方、事象の地平線の内側r<rSの領域とは情報の交換はできません。これはつまり、ブラックホール自身は自分の磁場を持てないことを意味しますが、外側の磁力線を組み込むことはできます。重要なことは、一様磁場中のブラックホールはローレンツ力によって表面電荷に非一様性を生じ、外部に四重極電場をつくるということです。同様な現象は、パルサー磁気圏でも見られます。これは、上で述べた「時空の引きずり」に起因するもので、降着物質によってエルゴ領域に運ばれた磁力線はブラックホールと共回転することになります。エルゴ領域には静止系は存在しないので、磁場が存在すればどのような系でも電場が存在します。そのため、赤道面と極の間を電流が流れ、回転するブラックホールからパワーを引き出すことが可能になります。

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