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宇宙科学の最前線

相対論的ジェットの理解に向けて Understanding Relativistic Jets インターナショナルトップヤングフェロー Lukasz Stawarz

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 このようなジェット生成メカニズムは、BlandfordとZnajek(1977)によって最初にその可能性が議論されました。彼らは、どのように誘導電流が駆動され、ブラックホールの回転エネルギーが解放されるかを理論的に明らかにしました。エルゴ領域からエネルギーが解放されると、そのエネルギーはブラックホール磁気圏の真空中で生成される電子・陽電子とともにポインティングフラックスの形で極方向に運ばれます。そのため、ジェットは磁場優勢で、生成時から相対論的であり、レプトン(電子・陽電子)が支配的となります。このようにして引き抜けるエネルギーは、最も明るいAGNのエネルギーと同程度であり、アウトフローの最大パワーも、観測から見積もられるAGNジェットのパワーに匹敵します(Pj〜(M / 108Mʘ)×(J / Jmax2×1045 ergs−1)。 注目すべきことは、このモデルでは、ジェットの持つパワーがブラックホールのスピンの2乗に比例することです。これこそが、なぜいくつかのブラックホールだけがジェットを持ち、ほかのものは持たないかに定性的な説明を与えるスピンパラダイム、つまり「ジェットを持つブラックホールは大きなスピンパラメータを持つ」ことを予言します。

 このような描像は、一般相対論的電磁流体シミュレーションによって、最近詳細に研究が行われています(図2)。特に注目したいのは、このBlandford-Znajekメカニズムが観測的にも検証できる可能性が出てきた点です。ごく最近になって、X線天文衛星「すざく」やフェルミ衛星LAT検出器によるX線ガンマ線観測によってブラックホールのスピンパラメータを測ろうとする試みが可能になりつつあるのです。ひとたびその方法が確立されれば、数多くの異なるシステムにおいてブラックホールスピンとジェットパワーの関係を探ることができ、P∝a2の関係を確認し、スピンパラダイムを実証することが可能になります。もし実証できれば、AGNに付随する相対論的ジェットが、いかに極限的な状況で生成されたかを示すことになるでしょう。ここで注目すべきことは、Blandford-Znajekメカニズムにおいて、1022cmから1025cmにも達する非常に強力なアウトフローは、rG〜(1012−1015)cmの非常に小さなスケールでつくられるということです。ジェットの究極のエネルギー源は時空であり、その時空に対してエルゴ領域の電磁場がした仕事が莫大なパワーを生みます。そのような意味で、活動銀河の相対論的ジェットは、本当に注目すべき天体といえます。

図2
図2 最大回転しているブラックホール周囲の磁力線の3次元イメージ
黄色の領域はエルゴ領域を示す。小出らによるBlandford-Znajekプロセスの一般相対論的電磁流体シミュレーションの計算結果。(S. Koide et al., Science, 2002, vol. 295, p.1688)


 宇宙科学研究所では相対論的ジェットの理論的、観測的研究を行っています。最新のX線ガンマ線観測に基づいて、ジェットにおける粒子加速機構、ジェットの内部構造や成分、ジェットを持つAGNの宇宙論的進化などの研究を進めています。ジェットに関する未解決問題は多々ありますが、現在稼働中の「すざく」衛星やフェルミ衛星、将来のASTRO-H衛星やCTA(Cherenkov Telescope Array)計画と協力し、これらの問題を解明していきたいと考えています。

(ルカシュ・スタワージュ/日本語訳:田中康之)



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