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宇宙科学の最前線

月地下溶岩チューブの天窓 固体惑星科学研究系 助教 春山純一

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月溶岩チューブ探査、そして火星溶岩チューブ探査

 私は、この縦穴や下に続くと考えられる溶岩チューブは、次期月探査の重要な探査候補地と考えている。まずは孔周辺部、孔の壁面、底面などを詳細に観測できるだけでも重要である。その結果を受けて、将来的に、孔の中に入っていくなどのミッションが期待されよう。

 そして、その先には、火星の溶岩チューブの探査が重要だと考える。火星の溶岩チューブは、地下において水の流れる場として最適であっただろう。そして季節ごとに流量が変わる。あるときは多く、あるときは少なく。そうした繰り返しの中で、溶岩チューブの壁などのポケット状になったところに、何かしら物質がたまる場合があるかもしれない。それが炭素や窒素などであれば、有機物の形成・発達なども考えられるかもしれない。チューブの中は、先に述べたように、温度がある程度保たれる一方で、有機物を壊していくような紫外線や放射線などが届かない。つまり、有機物の進化には適しているのではなかろうか。生命とまではいかずとも、生命前駆体の何らかの形を取った「化石」が残っていて、地球では失われてしまった有機物と生命のミッシングリンクを解明する手掛かりが見つかるかもしれない。何がチューブの中で起きたか、何が残っているかは、大変興味深い。ぜひ火星の溶岩チューブの中にも入り込んで探査してみたい。その予備的探査の意味でも、月の縦穴調査は大きな意味があると思う。


月溶岩チューブと月基地建設

 さて、今回の発見は月基地建設につながる、ということがよくいわれる。それでは、何のための月基地だろうか? 私なりの考えでは、地球外サンプル保存解析基地である。今世紀、我々は多くの地球外サンプルを手にすることになろう。そのサンプル解析の重要な目的の一つは、地球外生命あるいはその存在の手掛かりを探し出すことであろう。しかしながら、そうした(地球外生命にかかわるような)サンプルは、地球を「汚染」するのではないかと心配する声もある。一方、科学者の多くはむしろ、サンプルの地球帰還に当たって、地球大気や水、生命がサンプルを「汚染」してしまう可能性を心配する。地球帰還前に、事前に調査できるとよい。その点で、月基地は大変有効だと思う。地球外サンプルを月へいったん落として、それを回収し、月基地で解析保存するのである。経済的なリターンはさておき、地球外サンプルにより人類が得られる知見は計り知れず、サンプル保存解析のための月基地建設が進められるのは素晴らしいことだと思う。月基地建設がより低コスト、また安全になるということで、今回の発見が役に立てばうれしい。

終わりに

 初めて人類が月に降り立ってから40年以上が過ぎた。私が小さかったとき、自分が大人になるころには月へ多くの人間が行っているものと思っていた。アニメーションの機動戦士ガンダムに出てきた巨大なスペースコロニーを見て、ああした人間の手による新たな生存空間が地球外につくられ、人間の素晴らしい知恵と科学が、人類の可能性をさらに広げていってくれていると思っていた。しかし、現実は、やっと宇宙ステーションができたところである。今回の我々の発見が、新たな宇宙時代への大きな飛躍を少しでも後押しするものになればと思う。

(はるやま・じゅんいち)


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