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宇宙科学の最前線

月からその先へ「かぐや」が明らかにした月周辺のプラズマ環境 宇宙プラズマ研究系 准教授 齋藤義文

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 「かぐや」は2007年9月に種子島宇宙センターより打ち上げられた月周回衛星で、2009年6月11日に月に落下するまでの1年半余りの間、月高度約100kmで観測を行いました。「かぐや」には14の観測装置が搭載されていましたが、ここで紹介するのはその中のプラズマ観測装置(MAP-PACE:MAgnetic field and Plasma experiment-Plasma energy Angle and Composition Experiment)による観測成果です。

 月は私たちの地球に最も近い天体で、1960年代にはすでに人類がその表面に降り立っています。しかしながら、月周辺のプラズマ環境については意外なほど分かっていませんでした。ここで「プラズマ環境」と呼んでいるのは、電子やイオンのように電荷を持った粒子の分布や電場・磁場などの状態のことです。1960年代、1970年代にはプラズマの観測装置を搭載した人工衛星が月周辺で観測を行いましたが、当時の観測装置は今ほど性能が良くなかったため、十分な観測データは得られていませんでした。その後月を訪れた衛星は月表面のイメージングを主目的としており、月周辺のプラズマ環境についての新しいデータは取得されないままでした。1998年に米国が打ち上げた月周回衛星「ルナープロスペクタ」には電子の観測装置が搭載されており、月周辺の電子の分布については多くのことが明らかになったのですが、イオンについてはデータのない状態が「かぐや」の打上げまで続いていました。

 太陽からは絶えず秒速500kmもの速さで太陽風と呼ばれるプラズマが流れ出しています。この太陽風の中身は電子やイオンなどの電荷を持った粒子で、密度は1cm3当たり数個程度です。太陽風中のイオンは水素原子核が主な成分で、そのほかにヘリウム原子核や、酸素イオンなども含まれています。私たちの地球には固有の磁場があり、地球は大きな磁石であるといえます。電荷を持った粒子は、磁場があるとそのまわりをぐるぐると回る回転運動(ジャイロ運動と呼びます)をし、自由に運動することができません。その結果、太陽風中の電子やイオンは、地球の近くに自由に入り込むことができず、地球磁気圏と呼ばれる太陽風のプラズマと区別された領域が地球のまわりにできます。ところが、月には強い固有の磁場がなく、また地球のように濃い大気もないので、太陽風の電子やイオンは直接月の表面に衝突してしまいます。それが月周辺のプラズマ環境に大きな影響を与えていることが、「かぐや」の観測で初めて明らかになってきました。

 MAP-PACEは、15keV以下の電子のエネルギーと量を計測する2台の電子観測装置(ESA:Electron Spectrum Analyzer)-S1、ESA-S2と、28keV/q以下のイオンのエネルギーと量を計測するイオンエネルギー分析器(IEA:Ion Energy Analyzer)、IEAの機能に加えてイオンの質量も計測できるイオンエネルギー質量分析器(IMA:Ion Mass Analyzer)の計4つのセンサーで構成されています。「かぐや」は、衛星の決まった一つの面を常に月面に向けた状態で月のまわりを飛行しますが、どの方向から飛来する電子、イオンでも計測できるように、ESA-S1とIMAは月面方向の半球面の観測視野を、ESA-S2とIEAは月面と反対方向の半球面の観測視野を持つように衛星に搭載してあります。IEAとIMAの観測視野を図1に示します。


図1
図1 プラズマ観測装置(MAP-PACE)のイオンセンサーの観測視野
月の昼側で、イオンエネルギー分析器(IEA)は太陽風を、イオンエネルギー質量分析器(IMA)は月面から飛来するイオンを計測する。月面から飛来するイオンには、太陽風が月面で反射/散乱した成分や、月面起源のイオンなどが含まれる。


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