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宇宙科学の最前線

「すざく」が追う謎の「暗黒加速器」の正体

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謎めいた宇宙の基本構成要素・宇宙線

 宇宙空間には、「宇宙線」と呼ばれる超高エネルギーに加速された荷電粒子が飛び交っています。その最高エネルギーは、たった1粒の陽子や電子で1020電子ボルト、1カロリー程度にもなります。こんな粒子がぶつかってきたら大変そうですね。ただし、こんなにエネルギーの高い宇宙線はさすがにまれで、ほとんどの宇宙線のエネルギーは109電子ボルト程度です。また、指先ほどの面積に毎秒1個通過するくらい、宇宙にはたくさんの宇宙線が存在します。
 このように宇宙線は、最も激しい宇宙の基本構成要素の一つなのです。それにもかかわらず、1912年にHessが宇宙線を発見して以来100年近くたった現在でも、宇宙線がどんな天体で加速されているのかという基本的問題は謎のままになっています。その大きな原因の一つが、宇宙に普遍的に存在する星間磁場です。荷電粒子は星間磁場中で、磁場のまわりをぐるぐる回るジャイロ運動をします。磁場は普通とても小さいため、宇宙線のジャイロ運動の半径は非常に大きいのですが、太陽系外の天体までの距離は何光年から何千光年もあるため、地球に到達するころにはどこから来たのか分からなくなってしまっているのです。
 一方、宇宙線粒子が光子を発すれば、もちろん光は直進するので、我々は加速源を「見る」ことができます。加速された電子は磁場中でジャイロ運動をする際、シンクロトロンX線と呼ばれる光を放射します。また、電子が宇宙背景放射の光子と相互作用したり、陽子が分子雲などにぶつかったりして、X線の10億倍、可視光の1兆倍もエネルギーの高いTeVガンマ線(TeV:テラ電子ボルト、テラは1012)も放射します。これらの光を探すことで、我々は宇宙線の起源を探すことができます。1995年、日本のX線天文衛星「あすか」は、西暦1006年に爆発したSN1006と呼ばれる超新星残骸(星の死に際の大爆発の名残)の衝撃波からシンクロトロンX線を発見し、宇宙線電子成分の加速現場であることを突き止めています。しかし、現在までに見つかった宇宙線加速天体の数は、宇宙線すべてを説明するにはとても少なく、さらなる探査が必要です。


謎の天体「暗黒加速器」

 そうした中、2005年、非常に不思議な天体が発見されました。ドイツを中心としたTeVガンマ線望遠鏡のHESSチーム(もちろん宇宙線の発見者Hessにあやかった名前です)が我々の天の川銀河の探査を行い、多くの新天体を発見したのです。これらの天体は銀河面に沿って存在し、多くの天体は広がっています。このことから、新天体は我々の銀河内の天体であることは明らかです。また、非常に高エネルギーの光が放射されているので、この新天体が宇宙線加速器であることは間違いありません。しかし奇妙なことに、今までによく観測されてきたはずの可視光や電波、赤外線、X線などでは、対応天体が見つかっていないのです。正体の分からない謎の加速器ということで、「暗黒加速器(dark particle accelerator)」などというSFまがいの名前まで付けられ、騒然となりました。100年待ち望んでいた宇宙線加速源かもしれない、という興奮ももちろんありますが、何よりも「21世紀になっても人類の知らない天体が宇宙にはたくさん存在する」のは、何ともわくわくしてしまうことではないですか!
 では、「暗黒加速器」の正体はいったい何なのでしょうか。さまざまな研究者が、さまざまな説を唱えています。大昔に爆発した超新星の残骸、パルサー星雲、ガンマ線バースト残骸、銀河面に衝突する分子雲、果てはダークマター対消滅現場……。言いたい放題です。理論研究者もまた、新しい天体の発見が楽しくて、わくわくしているのでしょう。



図1
図1 「すざく」で暗黒加速器であることが判明したHESS J1745-303。カラーは「すざく」の画像で、等高線はHESSの画像。TeVガンマ線放射をしている天体は、X線ではまったく光っていない。


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