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宇宙科学の最前線

気球を使った微小重力実験システムの開発とその将来

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 現在,気球を使って微小重力の実験をするシステムの開発が行われています。微小重力とは文字通り,ほとんど重力がない世界です。そこでは「上」も「下」もないので,物は落ちないでフワフワと浮かんでいますし,混じり合った水と油は分かれることなく,「水と油の関係」とはなりません。例えば,最近テレビなどで,宇宙でのスペースシャトル内部の様子として宇宙飛行士が宙に浮かんでいる姿などが流れていましたが,これも微小重力のなせるワザです。微小重力の環境を利用することで,材料や生命科学,燃焼など,さまざまな研究分野で新たな成果が得られると期待されています。私たちは,この微小重力の実験を手軽に,かつ高品質にて行う手段として,気球を利用することを考えています。

 本稿では,この微小重力の実験システムの概要と,それを開発することで得られる二次的な効果について,述べることにします。



今までに行われている微小重力実験の方法

 さて,微小重力の環境を手に入れたいと考えた場合,どうしたらよいでしょうか。最も簡単な方法の一つとして,「上から物を落とす(自由落下させる)」という方法があります。微小重力にしたいものを容器の中に入れて,それを上からポトンと落とせば,その容器の中の世界では重力を感じません。実際,この性質を利用した微小重力の実験装置はいくつかあります。例えば,深い穴の上から微小重力にしたいものを納めた容器を落とす「落下試験装置」などと呼ばれる装置が,日本国内を含めていくつかあります。この方法ですと,確かにきれいな微小重力環境が得られます。ただ,この方法の弱点は,数秒程度しか微小重力環境は続かない,ということです。それを超す時間の試験をしようとすると,非現実的とも思える深い穴(もしくは高い塔)が必要になってきます。例えば,20秒間の微小重力を得るのに,深さ2kmもの穴が必要になるのです。

 ほかの方法として,「飛行機を利用して弾道飛行させる」という方法も行われています。この方法ですと,数十秒の間,微小重力環境を続けることができます。ただ,細かい話をすると,飛行機を用いるとどうしても多少の重力が残ってしまうため,材料を均一に混ぜ合わせたい場合など,研究テーマによってはこの方法では不向きなこともあります。

 一方で,スペースシャトルなどの宇宙機を利用すれば,良好な微小重力の環境が数日以上持続することになります。技術的には,宇宙機を使うのは大変魅力的な方法です。ただ,時間とコストがどうしてもかかってしまいます。

 そこで私たちは,手軽に,良好な微小重力の環境を数十秒以上持続できる方法を求めた結果,気球を利用することを考え付き,宇宙科学研究本部の橋本樹明教授を研究代表者として,その実験装置システムの開発を進めています。試作1号機となる機体は完成し,気球による打上げを待つ段階にあります。




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