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宇宙科学の最前線

小型高機能科学衛星INDEXの開発

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表紙
INDEX衛星の軌道上イメージとインハウス開発風景


 宇宙科学研究本部(ISAS/JAXA)の科学衛星は,7〜12年以上の開発期間がかかり,衛星の価格も120億円,打上げコストは60億円程度かかる規模となってきています。加えて,近年の予算難から,従来のように1年1機の衛星打上げができない厳しい状況に陥っています。

 宇宙理学の立場からは,大型ミッションではカバーできない小規模の科学ミッションに対応する手段が欠如してしまい,健全な宇宙科学活動が維持できない危険性が指摘されています。ISASではこのような問題に対し,100〜500kg程度の小型衛星を比較的低価格で開発して打ち上げるという提案が出され始めています。

 一方,衛星技術の観点からは,10年単位の開発期間がかかる衛星計画では,技術革新のサイクルが長期化し,また高額な衛星の信頼性確保のために,新規衛星技術の採用に対して保守的にならざるを得なくなる弊害を内在しています。逆に,低価格化だけを狙った衛星でも,コスト重視のため,新規衛星技術の採用に消極的になってしまうという同様の危険性があります。

 このような厳しい状況への打開策として有効な方策は,新規衛星技術を積極的に取り入れた小型/中型衛星をタイムリーに開発し,打ち上げていくことであると考えられます。そのようなアプローチの一つとして,ピギーバック衛星INDEX(INnovative-technology Demonstration EXperiment)の開発が行われ,2004年7月の段階でFM(フライトモデル)試験を実施中です。INDEXが狙うのは,低コストの標準的なバス(衛星を運用するために必要な機器群)を開発することではなく,新規技術を積極的に取り入れた小型科学衛星の開発です。



表1
表1 INDEX衛星の開発担当


インハウスで開発する先進的小型衛星

 INDEX衛星計画は上で述べたように,先進的な衛星技術を軌道上で実証するという工学的な目的とともに,優れた小型宇宙理学観測を同時に行うという狙いを持っています。50〜70kg級の小型衛星を3年程度で開発し,低コストの打上げ手段として,(H-IIAロケットなどの)ピギーバック衛星として打ち上げるものです。ロケットの打上げ能力の余剰を活用し,主衛星と同時に打ち上げられる小型衛星をピギーバック衛星と呼びます。

 INDEX衛星の開発においては,以下の方針を設定しています。
(1) 限られたリソースの中で,科学観測のために最適化された衛星設計を行う。
(2) 衛星の設計や試験,搭載ソフトウェアやミッション機器の製作,地上局の整備などは,衛星メーカーに委託せず,インハウスで行う。
(3) 先進技術搭載機器は,我々が開発したものを特色ある衛星メーカーに発注する。
(4) その他の従来的な搭載コンポーネントは,ベンチャー企業や新規参入メーカーに発注し,宇宙独自の技術についてはINDEXチームが指導する。

 衛星の各サブシステムの開発担当をまとめた表1から,インハウス的な開発の体制がよく分かります。

 上の(3)で挙げた先進的な衛星機器の多くは,ISAS内で筆者らが中心となって進めてきたSTRAIGHT(STudy on the Reduction of Advanced Instrument weiGHT)プログラムで開発されたものです(表2)。



表2
表2 INDEXに搭載される先進衛星機器


 ISASでは,科学ミッションを行うグループと衛星技術開発を行うグループが密接な関係を持って活動しており,その中で将来衛星計画に必要な高性能な搭載機器を,衛星計画が本格化する以前に開発していく体制をとっています。これをSTRAIGHTプログラムと呼び,将来衛星計画の特徴からどのような性能の機器が必要とされるかを調査検討し,開発リスクが多少あるものでも時間をかけて開発してきました。その範囲は,光学姿勢センサ,プロセッサ,宇宙用デバイス,バッテリ,熱制御素子,ハニカムパネル,GPS受信機など,衛星サブシステムのほとんどすべてに及んでいます。

 このような将来を見据えた衛星技術開発の成果が,INDEXという小型ながら高性能な科学衛星の実現を支えています。逆に,STRAIGHTプログラムの側から見れば,新規開発した機器を大型科学衛星にいきなり実戦投入するリスクを軽減できるという点で,INDEXは好適なミッションであるといえます。



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