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宇宙科学の最前線

小型高機能科学衛星INDEXの開発

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INDEXの衛星システム

 INDEX衛星では,オーロラの微細構造の撮像を行う理学ミッションの要求から,撮像に適する3軸姿勢安定方式を採用しました。INDEXの包絡(ほうらく)領域は60×60×70cm,重量は約60kgです。この限られたリソースの中で,スタートラッカ(STT)やスピン/ノンスピン型太陽センサ(SSAS/NSAS),地磁気センサ(GAS),3軸の光ファイバジャイロ(FOG)といった各種センサ,およびアクチュエータとしてリアクションホイール(RW)と磁気トルカ(MTQ)を搭載しています(!)。RWはミッション要求と搭載スペースを勘案して1軸分のみを搭載し,バイアスモーメンタム方式の3軸姿勢制御を行います。姿勢制御精度は0.5度,姿勢決定精度0.05度が目標です。

 ロケットから分離した直後の初期姿勢捕捉モードでは,約10時間以内に衛星にスピン角運動量を与え,かつ太陽電池パドルを太陽方向に向けるための制御を行う必要があります。分離擾乱を抑えるライブレーションダンプ制御,スピン角運動量を獲得するためのスピンアップ制御,太陽方向を捕捉するための太陽捕捉制御から成るこの初期姿勢捕捉の結果は,約半日後の第一可視運用で確認されます。打上げ後にいきなりやってくるINDEX衛星運用の最初のハイライトです。

 INDEXのバスシステムは,姿勢制御の演算をはじめとする衛星制御に関する大部分のタスクを単一の計算機がつかさどる,統合化制御方式となっています。通常の科学衛星では,例えば誘導制御用やデータハンドリング用などに専用の計算機が用意されるのに対して,INDEXの統合化制御装置ICU(Integrated Controller Unit)は,姿勢制御,コマンドハンドリング,テレメトリ作成,ハウスキーピング(HK)データの取得,電力管理,観測データ圧縮などをすべて行います。CPUにはゲーム機などでおなじみの民生品のRISCプロセッサ(SH-3)を用い,三重冗長の多数決論理により放射線に対する耐性を高めています。

 通信リンクはアップ/ダウンリンクともSバンドとし,測距機能を持たないノンコヒーレント通信システムをとっています。軌道決定は,北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)がWeb上で公開しているTwo Line Elementデータ,および搭載する車載用民生GPSによるデータを用いて行います。最近の携帯通信機器の発展においては,デジタル信号処理技術や新しい電子部品の実用化が目覚ましいですが,このような新規技術を衛星搭載通信機器に取り入れるために,Sバンド受信機(SRX)と送信機(STX)を新規に開発しました。また,地上局に関しては,ISAS相模原キャンパスの研究棟の屋上に,内之浦(USC)に設置されていた風レーダ駆動装置と3mパラボラアンテナ主鏡を移設しました(図1)。通常の衛星運用はこのアンテナを用いて,相模原キャンパスに整備しているINDEX専用の運用室から同様に行うことができます(PCベース!)。



図1
図1 相模原キャンパス屋上に設置された3mアンテナ


 そのほか,電源系では,太陽光を太陽パドルに集光する薄膜反射パネル(約1.2倍の発生電力増加)やマンガン酸リチウムイオン電池の搭載,熱制御系では,低温になると熱輻射率が小さくなる物質を用いた熱制御デバイス(可動部分のないサーマルルーバ)の軌道上での性能評価など,特徴的なシステムを構成しています。

 高機能な小型衛星の設計においては,必要な機器を限られたスペースにいかにうまく収納できるかが,第一の関門になります。INDEXでは,この機器配置にプロユースの3D-CADを導入し,機器干渉のチェックや質量特性の調整,光学センサの視野の確保などを効率的に進めました。また,小型衛星では,計装ケーブルの重量も衛星の質量特性に大きな影響を与えるため,その効果も取り入れて質量特性の調整を行っています。



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