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特集

超新星残骸 宇宙線の起源に迫る

田中孝明 スタンフォード大学スタンフォード線形加速器センター

 私たちの住む地球には、「宇宙線」と呼ばれる高エネルギー粒子が、宇宙から絶えず降り注いでいます。その量は、私たちの手のひらを毎秒約1個の粒子が貫いている計算となります。研究者たちは長い間、「この宇宙から降り注ぐ粒子がいったいどこで加速されているのか?」という疑問に対する答えを探し続けてきました。現在考えられている「宇宙線の起源」の筆頭候補が、重い星が一生を終えるときに起こした爆発の名残、超新星残骸です。「すざく」の先代の衛星「あすか」は、超新星残骸を観測し、宇宙線の電子によって放出されていると考えられるX線を検出しました。このX線は、超新星残骸で加速されている高エネルギー電子からのシンクロトロンと呼ばれる放射であるとすると、うまく説明できることが分かっています。我々は、超新星残骸が宇宙線の起源であるという仮説を確かなものにするため、「すざく」の打上げ直後から、超新星残骸の中でも特に明るいシンクロトロンX線を放射しているRX J1713.7-3946と呼ばれる天体(図13)に注目し、観測を行いました。

図13 「すざく」で得られた超新星残骸RX J1713.7-3946のX線画像(カラー)とガンマ線望遠鏡H.E.S.S.によるガンマ線画像(等高線)

図14 「すざく」衛星による超新星残骸RX J1713.7-3946の X線スペクトル

「すざく」の特徴は、幅広いエネルギー帯域を観測できるところにあります。一方で、シンクロトロン放射など宇宙線からの放射は、一般的に広いエネルギー帯域にわたる放射になります。したがって、我々の「すざく」は、宇宙線の起源についての研究に最も適した天文台なのです。観測データを解析してみたところ、我々の狙い通り、今までのどのX線天文衛星よりも広い帯域で超新星残骸RX J1713.7-3946からの放射を検出することができました。
 さらにスペクトルをよく調べてみたところ、図14にあるように、高エネルギー側でX線強度が急激に小さくなる「カットオフ」があることが分かりました。「カットオフ」の存在は理論的に予想されていましたが、今までのX線観測では見えていませんでした。「すざく」の広帯域観測により、「カットオフ」の存在を初めてはっきりと示すことができたわけです。スペクトルの「カットオフ」の位置(エネルギー)は、宇宙線が加速される効率のよさで決まります。そこで、この超新星残骸における宇宙線加速の効率を計算してみたところ、宇宙線が非常に効率よく加速されていて、理論の予測する限界に近いほどの高い効率であることが分かりました。
 また、得られたスペクトルによって、この超新星残骸で電子だけでなく陽子も加速されていることが確かなものになりました。地球にやって来る宇宙線の主成分は電子ではなく陽子なのですが、最近まで、陽子が天体で加速されている確固たる証拠はありませんでした。欧州のグループによるガンマ線望遠鏡H.E.S.S.などの活躍によって、超新星残骸RX J1713.7-3946から、陽子からの放射でないかと思われるガンマ線が放射されていることが分かっていますが、電子からの放射であると主張する研究者も多く、大きな論争になっています。我々の研究により、X線スペクトルとガンマ線スペクトルの両方をうまく説明するには、ガンマ線が陽子から放射されていると考えなければならないことが分かりました。我々は、チャンドラ衛星によるX線画像から同じ結論を得ていますが(詳細は『ISASニュース』2007年12月号、内山泰伸「新星残骸で加速される宇宙線」を参照)、「すざく」の得意とするスペクトルから独立に陽子加速の証拠を得たわけです。
「すざく」衛星はほかの超新星残骸も観測しており、宇宙線の起源について非常に興味深い結果を出し続けています。また、2008年前半には、私が所属しているスタンフォード大学スタンフォード線形加速器センターを中心に開発されたガンマ線観測衛星GLASTが打ち上げられます。「すざく」とGLAST衛星の活躍で、宇宙線加速の理解は飛躍的に進むでしょう。

(たなか・たかあき)