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特集

白色矮星の新たな素顔 本当は激しいやつだった

寺田幸功 埼玉大学大学院 理工学研究科

 太陽程度の質量の恒星は、進化の末に核燃料を使い果たすと、星からゆっくりとガスが放出され惑星状星雲となります。白色矮星は、その中心でゆっくりと冷えて、やがて見えなくなっていく地球サイズの小さな天体です。一見静かな白色矮星ですが、「すざく」によって新たな側面が発見され、新聞やテレビで「100年来の謎に解決の糸口」と報道されました。
 「100年来の謎」とは何でしょうか。宇宙には、「宇宙線」と呼ばれる高いエネルギーを持った粒子が飛び交っています。中には、人類が地上の加速器実験で到達し得たエネルギーの7桁も上のエネルギーを持つ粒子もいるようです。こういったエネルギッシュな粒子が、指先に毎秒1個程度と、普遍的に存在しているにもかかわらず、いったいどこで、どうやってつくられたか、その全貌はいまだに謎とされています。これが「100年来の謎」です。宇宙線の起源としては、銀河系内では中性子星パルサーや超新星残骸の衝撃波領域など激しい天体が候補とされ、観測的な証拠も固められています。しかし、宇宙線すべてを説明するには天体数が不足しています。すなわち、我々の知らない未知の加速源があるはずです。
 未知の加速源を探す手掛かりとして、我々は、中性子星パルサーと白色矮星の類似性に着目しました。白色矮星が宇宙線加速の現場として注目されたことはほとんどありませんが、中性子星も白色矮星も、回転するコンパクトな天体であることに変わりはありません。そもそも、中性子星パルサーは、1012ガウス程度の磁石が数ミリ秒から数秒の周期でくるくると回転する系です。自転車のダイナモ発電機と同じ原理で1017ボルトもの誘導電場が発生し、まわりの荷電粒子を加速して宇宙線を生成していると考えられています。同様に、白色矮星でも磁場の強い天体なら宇宙線を生成していても不思議ではなかろう、というのが我々の発想です。実際、106ガウスの磁場を持つ白色矮星では、1015ボルト程度の誘導電場が発生します。これは、宇宙線の加速源の候補としては十分です。しかも、白色矮星はやたら天体数が多いので、加速源となれば、大きなインパクトがあります。  我々は、強磁場激変星という恒星と白色矮星の連星系を、「すざく」の観測対象にしました。みずがめ座AE星は自転周期が33秒と激変星の中でも最速で、磁場は105ガウス程度なので、粒子を加速する条件は整っています。そこで、我々は2005年と2006年の2回、みずがめ座AE星を「すざく」で観測しました。

図6 白色矮星みずがめ座AE星からの自転パルス

 「すざく」以前のX線天文衛星によって、みずがめ座AE星の熱いプラズマが出す軟X線が、自転とともに強くなったり弱くなったりしている様子が観測されていました。「すざく」では、こういった軟X線の上に、加速粒子がもととなって出る硬X線の信号を探す必要があります。この探査に、X線CCDカメラ(XIS)と硬X線検出器(HXD)の組み合わせが大きな威力を発揮しました。図6は自転に伴うX線の明滅を示したもので、赤で示したCCDの信号には、緑で示した軟X線の変動の上にパルス状の放射がはっきりと検出されています。これは、青で示したHXDの結果を見るとより顕著で、ほとんど硬X線のパルスしか見えていません。硬X線だけで見える鋭いパルス信号は、初めての発見です。X線分光や時系列解析など総合的に考え、我々は、この鋭いパルスは加速粒子からの信号である可能性が高いと考えています。そこで、中性子星パルサーにちなんで、「みずがめ座AE星は白色矮星版パルサーかもしれない」と考えています。
 「すざく」は今回の研究で、宇宙線加速源という100年来の謎に新たな可能性を提示しました。加速現場として激しい天体に注目する時代から、白色矮星や銀河団といった静かな天体にもスポットを当てる新たな時代が拓かれようとしています。次世代のX線衛星に期待です。

(てらだ・ゆきかつ)