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特集

星から原始地球へ 重元素の輸送経路を追え

濱口健二 NASAゴダード宇宙飛行センター

 宇宙開びゃく時に合成された元素は、周期表で水素からリチウムまでの3種類だけ。それより重い、私たちの体を構成する主要元素(炭素・窒素・酸素など)は、太陽より重い星の深部で核合成されました。この生成元素がどのようにして星の外に放出され、宇宙空間を漂い、誕生間もない太陽系に取り込まれたのか、それは地球そして生命誕生の謎を解明する上で避けては通れない問題でしょう。
 太陽は、宇宙に漂うガスの塊から、数多くの星の一つとして生まれたと考えられています。このいわゆる星形成領域に数百万度の高温ガスがうっすら広がっていることが、近年、X線波長域の観測によって見えてきました。その有力な生成要因は二つ。はるか昔の複数の超新星爆発でできた高温ガスが冷えずに残っているというものと、星風(星からの高速の粒子の流れ)が衝突、加熱しているというものです。高温ガスの形状、温度、明るさからでは、いずれとも判断がつけられません。
 そこで重要なのは、高温ガスの成分を精度よく測定すること。ここで「すざく」が大きな威力を発揮します。ガス中に炭素・窒素・酸素・鉄があると、10〜20Å(オングストローム:1億分の1cm)のX線波長帯で輝線を放射します。この輝線強度を測定すれば、ガス中での元素の組成比が分かるのです。「すざく」によって我々は、広がったガスに対してこの輝線を高い感度できれいに分解して測定する能力を、初めて手に入れました。
 これまでに「すざく」は、2ヶ所の星形成領域を観測しました。いて座にあるM17と、南天のカリーナ星雲です。その結果、どちらの領域も200万から600万度の高温ガスを持っていたのですが、M17は全体的に均一な元素比だったのに対し、カリーナ星雲は鉄と酸素の組成比が場所によって2倍から4倍も違いました(図3)。このような元素のガスの“かたまり”は、超新星残骸によく見られます。もしかしたら、M17にある高温ガスは星からの星風によって、カリーナ星雲の高温ガスは超新星によってできたのかもしれません。原始太陽がカリーナ星雲のような鉄や酸素の多いところにあったかどうかが、原始地球の形成に何らかの影響を及ぼしたのかもしれません。  では、具体的にどのような機構で、生成元素は星内部から星間空間に放出されていったのでしょうか? 華々しい超新星爆発については、(超新星爆発 参照)を、星末期の緩やかなガス放出に関しては(できたての炭素をとらえる)を参照ください。

図3 カリーナ星雲のX線画像(XMMニュートン衛星)と高温プラズマのX線スペクトル(すざく衛星)
赤:長波長X線、緑:中波長X線、青:短波長X線。図の中心領域は、周囲に比べて緑色の強度が低い。そこを「すざく」で観測したところ、鉄と酸素が赤い領域で不足していることが分かった(右上のスペクトル)。中心に見える最も明るい星がエータカリーナ(η Car)。 (Kenji Hamaguchi(NASA/GSFC) and ESA)

 このほかにもう一つ私たちが注目している過程、それは、太陽の数十倍の質量を持つ進化末期の大質量(ウォルフレイエ)星連星系が、お互いの星風を衝突させ激しいX線放射を繰り返しながら星の外層大気を吹き飛ばす活動です。ウォルフレイエ星はその質量の半分以上を失いながら、水素核燃焼で生成した窒素と、その後にヘリウム核燃焼で生成した炭素・酸素を含んだ大気を、星間空間に放出していきます。そのような星の一つで太陽質量の100倍以上もあるといわれるエータカリーナを、「すざく」は2年間定期的に観測してきました。2009年の初頭には、連星をなす互いの星が近星点に近づき活動の活発化が予想されます。「すざく」による星風衝突現象の解明に期待です。

(はまぐち・けんじ)