TOP > レポート&コラム > 特集 > 太陽観測衛星「ひので」 > 超巨大フレアを引き起こした太陽光球面の磁場変化
久保雅仁 米国立大気研究所 高高度観測所 研究員
太陽フレアは、太陽面で見られる最も激しい爆発現象です。フレアによってコロナ中のプラズマは数億度まで加熱され、フレアで生じた高エネルギー粒子は地球にも飛来し、人工衛星に障害を与えたりオーロラを発生させたりします。そのような地球環境への影響を予報する「宇宙天気予報」という試みが盛んになってきました。「ひので」では、影響の源である太陽フレアの発生機構を解明することが非常に重要な研究課題になっています。
2006年12月、太陽フレアのうちで最大規模を示すXクラスのフレアを4回起こす活発な黒点群が現れました。太陽活動の極小期に当たるこの時期に、巨大なフレアを多数引き起こす黒点群が出現することは、非常にまれです。「ひので」の本格的な科学観測が開始された直後に、このような黒点群が出現したことは幸運でした。ここでは、「ひので」の可視光磁場望遠鏡(SOT)による「顕微鏡観測」で初めてとらえた、フレア領域における微細な光球磁場構造の変化を紹介します。
フレアはコロナ中で起こる磁気リコネクションに起因することが、「ようこう」のX線観測で明らかにされました。蓄積された磁場のエネルギーが、磁気リコネクションによって、加熱や粒子の加速に必要な熱・運動エネルギーへと変換されます。多くの場合、巨大フレアは正極と負極が複雑に混じり合った黒点群で起きます。このような黒点群では、磁力線がねじ曲げられ、蓄積される磁気エネルギーが大きくなります。それでは、何がフレアの引き金になるのでしょうか?
図22aに示したように、今回観測された黒点群では北側の負極黒点と南側の正極黒点が衝突して、衝突領域では正負極の境界線(極性反転線)が非常に入り組んでいます。2006年12月13日にXクラスのフレアが起きたときの彩層領域の時間発展(図22b)を見ると、2つの黒点間の入り組んだ極性反転線付近で明るいループが現れ、その後2つのフレアリボンへと成長していきます。フレア前後の光球面磁場を比較すると、図22cの丸で示した極性反転線の一部の凹凸がフレア後になくなり、極性反転線が全体的に少し滑らかになりました。さらに、この凹凸のなくなった領域付近で、磁場の方位が90度近く大きく変化しました。
今回とらえたような光球面での局所的な磁場構造の変化が、巨大フレアの引き金になったと考えています。
(くぼ・まさひと)