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特集

ユビキタス・リコネクションの証拠としての彩層アネモネ型ジェットの発見

柴田一成 京都大学大学院理学研究科 附属天文台 台長

 2006年、太陽観測衛星「ひので」が打ち上げられ、太陽の驚くべき素顔が明らかになってきました。中でも興味深いのは、太陽の「彩層」と呼ばれる層(太陽表面の上空の大気層)が、非常に小さなジェット現象(細長い高速の流れ)に満ちていることが発見されたことです。彩層は、想像されていたよりもずっとダイナミックだったのです。とりわけ、そのような小さなジェット現象のうち、アネモネ型ジェットが多数発見されたのは驚きでした。
 アネモネ型ジェットは、今から16年ほど前、我が国が打ち上げた「ようこう」の太陽X線観測により、X線ジェットとしてコロナ中で多数発見されました。ジェットの足元の形が、イソギンチャク(sea-anemone)そっくりなので、そのように呼ばれます。アネモネ型の形状から、コロナのX線ジェット生成機構が「磁気リコネクション」と呼ばれるメカニズムであることが判明しました。今回発見された彩層のアネモネ型ジェットは、コロナのアネモネ型ジェットの数十分の1程度の長さしかなく(2000〜5000km)、速度も遅い(10〜20km/s)のですが、形がコロナのアネモネ型ジェットとそっくりなのです。このことから、ジェット発生のメカニズムは、磁気リコネクションであると考えられます。ジェットは彩層の至る所に存在するので、磁気リコネクションが太陽彩層中で普遍的に起きていることを示唆します。「ユビキタス・リコネクション(普遍的に発生するリコネクション)」が発見された、といってもよいでしょう。

図10 可視光磁場望遠鏡(SOT)で見た彩層の様子
太陽の縁近傍を見ている。黒い楕円の領域は黒点。無数の微小ジェットが見える。その中で、足元が光っているジェットがアネモネ型ジェット(矢印)。2006年12月17日、カルシウムUH線フィルターによる。(Shibata et al. 2007, Science 318, 1591より)

図11 彩層アネモネ型ジェット
左は「ひので」によって発見された彩層アネモネ型ジェット。SOTのカルシウムH線フィルターによる。1秒角=720 km。右は彩層アネモネ型ジェットの発生機構の想像図。Xのところで磁気リコネクションが起きていると考えられる。 (Shibata et al. 2007, Science 318, 1591より)

 コロナ加熱機構の有力な説の一つに、微小リコネクション(ナノフレア)説があります(パーカー、1988)。今回発見された彩層アネモネ型ジェットのエネルギーはまさにナノフレアのエネルギー程度なので、ユビキタス・リコネクションの発見は、コロナ加熱のナノフレア説をサポートする、ということができます。
 磁気リコネクションによって、コロナ加熱のもう一つの有力な説であるアルヴェーン波も生成されます。「ひので」によって観測されたジェットを詳しく調べると、アルヴェーン波の証拠も次々に見つかってきました。したがって、私はひそかに、「ナノフレア説―アルヴェーン波説の統一モデル」を考えています。今後の研究の発展が楽しみです。

(しばた・かずなり)