TOP > レポート&コラム > 特集 > 太陽観測衛星「ひので」 > 可視光磁場望遠鏡で探る太陽表面下
関井 隆 国立天文台 ひので科学プロジェクト 准教授
「ひので」は可視光・紫外線・X線の3つの波長域による観測で、太陽表面からコロナまでを同時にとらえることができる。では、表面より下の領域、太陽内部を観測することはできるだろうか。一つの方法は、音波を使うことである。
太陽内部の外側、半径にして約3割の部分は対流層であり、そこではプラズマの乱流的対流運動に伴って音波が発生する。太陽の内部では、約3mHzの周波数の音波が飛び交っているのである。
太陽の表面温度は約6000度であるが、表面から内部に向かうにつれて温度は高くなり、音波の伝わる速さ(音速)も上がる。それにより、音波は図7のように屈折する。つまり、音波が表面のある点を出発したとすると、この音波は一定時間の後に表面の別の点まで戻ってくる。このとき、もし太陽表面下に流れがあれば、音波の経路も変わるだろう。だから、表面上の2点間を音波が伝わるのにかかる時間を測れば、表面下の流れの向きや速さも測ることができる。これは「日震学」と呼ばれる研究手法である。
表面上の2点間を音波が伝わる時間を測るには、この2点での波動のシグナルの相関を取ってやればよい。図8は、「ひので」可視光磁場望遠鏡(SOT)のカルシウムH線データを使って計算した、(相互)相関関数と呼ばれるものである。例えば、1度離れた2点間では20分だけ時間をずらすとシグナルがよく似ており(相関が強い)、この2点間を音波が伝わるには約20分を要することが、この図だけからでも分かる。ここで示されているのはSOTの視野内の平均であるが、実際の解析には、もっと局所的な相関を取る。
図8 可視光磁場望遠鏡(SOT)のカルシウムH線から算出した相関関数 |
図9 カルシウムH線データのインバージョンから求めた深さ1000〜
2000km(1〜2Mm)での水平方向の流れの様子 |
最後に、「インバージョン」と呼ばれる手法を使って太陽内部におけるプラズマの流れの速度分布を求めたのが、図9である。ここでは深さ1000〜2000kmの領域における平均的な水平方向の流速だけを掲げる。数万kmのスケールのパターンは、表面で見られる超粒状斑のパターンとよく一致しており、もっと深い領域でのインバージョンと合わせて、超粒状斑のパターンが深さ数千kmまではほぼ表面と変わらないことを示している。
(せきい・たかし)