JAXA 宇宙科学研究所 海老沢研究室へようこそ
現役の大学院生に 研究室の様子, 典型的な1年(初年度), 典型的な1週間, 典型的な経済事情入学前にやっておくべきこと を紹介してもらいましょう。

研究室の様子

現在、海老沢研究室のメンバーは、A棟6階にそれぞれのデスクを構えています。海老沢研究室は宇宙研のX線グループの中でも天体観測データの解析を活発に行っている研究室なので、他の研究室の人からデータ解析について聞かれることもあります。

宇宙研では、数多くのセミナー、コロキウムが開かれています。「宇宙物理コロキウム」では、X線、電波、赤外、太陽を中心に、宇宙研で行っているサイエンスに関連する分野で(主に若手の)研究者の方がコロキウムをしてくれます。また、「宇宙科学談話会」では、理学工学あわせ広く宇宙科学の分野から、その分野の第一線で活躍されている方が講演をしてくれます。どちらも基本的に毎週(不定期でお休み)開かれていますので、オフィスにいながら最先端の研究の話を聞くことができます。英語で講演されることも多いので、英語の勉強にもなるでしょう。

海老沢研究室の学生は、海老沢教授や辻本准教授と定期的(毎週)に個別の研究相談を行います。学生はそこで研究報告、打ち合わせをします。研究室全体では2週間に1度のペースでミーティングを行い、事務連絡と研究報告を行っています。論文出版や観測提案書採択などのお祝い事があれば、皆でパーティ(主に焼き肉)をしておごってもらえます。


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典型的な1年(初年度)

1年の大まかな流れの例は、下の通りです。

4月入学!
新入生歓迎会 (だいたい焼肉)
研究開始
講義・X線演習ゼミ開始
5月MAXI and/or はやぶさ2運用当番開始
7月天文・天体物理若手夏の学校参加
9月日本天文学会秋季年会参加
10月そろそろ投稿論文を書き始める
12月自分の研究テーマに合った研究会に参加
3月日本天文学会春季年会参加
  論文投稿目標!

初年度に投稿論文を執筆することを目標にして、1年目を過ごします。入学してすぐは計算機の使い方を学びながら、実際にX線天文衛星の観測データ解析を始めます。 X線天文学では、衛星によって取得されたデータはすべてアーカイブ化され、一定期間が経ったら誰でもアクセスできるようになっています。 そのため、アーカイブデータを基に書かれた論文が数多くあります。 ある程度研究生活に慣れてきたら、研究テーマについて話し合います。 研究テーマが決まったら、あとは目標に向かって研究をするだけです。

東大天文学専攻では修士課程の間に授業で20単位(10コマ分)取らなければなりません。外部機関で研究している学生のために授業は月火に集中していますが、それでも本郷まで片道1時間以上かけて通うのは少し大変です。だからと言って宇宙研所属を諦めてはいけません。宇宙研では総研大の授業が開講されており、東大天文の学生は総研大の講義の単位互換が10単位まで認められています。つまり、本郷に行かなくても宇宙研内で半分の単位は取得することができるというわけです。総研大の講義は宇宙研らしさが前面に出ており、天文学だけでなく宇宙工学や宇宙生物学などの講義もあるのでとても面白いと思います。

また、宇宙研のX線グループM1を対象に海老沢教授主催のX線演習ゼミがほぼ毎週1年間通じて開かれています。テレビ会議で広島大や宮崎大など地方の学生も参加するほど、巷で人気(?)の演習みたいです。 この演習では宇宙物理学の基礎から高エネルギー天文学の最新の研究までを網羅的に学びます。 ですので、大学で天文学・天体物理学の専門的な勉強をしていなくても、物理学の基礎知識があればこの1年間で研究に必要な知識を身に付けることができます。

Meeting (astro) Meeting (journal) Meeting (suzaku)


ある程度落ち着いてくると、人によっては衛星運用の手伝いを開始します。僕の場合はM1の間に全天X線観測装置MAXIの運用当番を、M2以降に宇宙研所属の利点を活かしてはやぶさ2の運用RAを行なっています。 すざく運用終了以降、宇宙研が開発を行なったX線衛星は運用下にないため、これらの活動から衛星運用の手法を学んでいきます。 MAXIやはや2のデータを誰よりも早く確認することができるので、少し誇らしい気持ちになれます。

夏になると、若手の研究者や大学院生が集まって研究成果を発表する「天文・天体物理若手夏の学校」に参加し、それまでの研究成果を発表します。おそらく初めての研究発表となるでしょう。天文・天体物理若手夏の学校には全国から学生が集まってくるので、他大学の知人ができるでしょう。 夏の学校をマイルストーンにして、自分が行う研究テーマについて勉強して、一通り説明ができるようにします。

秋くらいになると、実際に論文を書き始めます。きっちりとした指導のもと、論文の書き方について学びます。ここで学ぶ文章の書き方は、以降の研究生活で非常に役立ちます。9月の下旬に日本天文学会の秋季年会が開催されるので、これまでの研究成果を発表します。年会は他の研究者の研究を知ることができるだけでなく、関連する研究者と議論を行い、自分の研究の理解を深めることができます。

年度内に投稿論文を完成させ、投稿します。論文が受理されて、はじめて一つの研究が完成します。これで1年がおしまいです。次年度の初めには日本学術振興会の特別研究員になるための書類を作成します。採択されるためには研究計画と研究成果(学会発表、学術論文)が重要になります。2年目の研究生活もほぼ同様だと思いますが、海外の研究会に参加したり、地上観測の経験を積んだりと、刺激的な研究生活が送れると思います。修士課程から入学した場合には、2年目の終わりに修士論文を作成することになります。

この他にも、検出器の較正に携わったり、宇宙研内の他の研究者と共同実験をしたりすることがあります。また、宇宙研は、日本の科学衛星運用の最前線ですので、理学だけでなく工学も含めたシンポジウムが多数開催されています。興味があれば、これらのシンポジウムに参加して、視野を広げることもできます。例えば、毎年1月には宇宙科学シンポジウムが宇宙研で開催されます。このシンポジウムでは、宇宙研で作成した(している)ほとんどすべての科学衛星に関する最新の成果や、現在のプロジェクトの状況に関する講演、ポスター発表が行われます。

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典型的な1週間

オフィスにいなければいけない時間というのは特にないので、バイオリズムに合わせたパターンがいろいろあります。以下に研究室のメンバーのある1週間のスケジュールを載せてみたので参考にしてください。

M2柏﨑の1週間
M2森口の1週間
D1望月の1週間
D2栗原の1週間
辻本准教授の1週間

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典型的な経済事情

大学院生の経済事情が気になる方もいると思います。大学院生生活においてかかる費用は、実家暮らしの場合は学費、交通費、交際費がメインです。一人暮らしの場合はこれに加えて家賃や光熱費、食費などがかかります。東大大学院の学費は約55万円/年です。私(下向)は実家暮らしなのですが、宇宙研から遠いので交通費は比較的高く18万/年です。これに交際費も加えると100万円/年は必要になります。これらは奨学金制度やRA制度、アルバイトで賄っています。

奨学金制度

大学で奨学金を借りていた方はわかると思いますが、手続きをすれば奨学金制度が使えます。院では日本学生支援機構の第一種(無利子)だけ借りれば賄えます。私は大学(私立)から借りているので中々すごい額になっています。奨学金制度の中には返済不要のものもあるので、色々探してみるといいと思います。東大の学内に掲示もあります。

JAXAのRA制度

宇宙研ではRA(リサーチアシスタント)の制度があります。これは宇宙研で研究している大学院生が応募可能で、普通に研究していれば時給1200円支給されます。応募のためには研究内容を論理的に述べた書類・推薦状が必要ですが、海老沢先生にフォローしていただけるので大きな心配は不要です。こういう書類は大学院だけでなくこれから何度も書く機会があるので、かなり勉強になります。勤められる時間には上限があり、頑張れば月に9万くらい稼ぐことが可能なので、かなり助かりました。もちろん落ちることもある(M1のときは特に)ので、その場合私はアルバイトをしていました。しかし大学院での研究や通学(往復5時間)で忙しくあまり時間が取れないので、なるべくRA制度を使いたいものです。もうひとつ、はやぶさ2のRAもあります。これははやぶさ2の運用の当番に携わることができるので、非常に貴重な経験になると思います。

東大のRA・TA制度

東大では「博士課程研究遂行協力制度」、「博士課程学生支援制度(理学系RA)」、「博士課程限定TA」があります。「博士課程研究遂行協力制度」、「博士課程学生支援制度(理学系RA)」のどちらかと「博士課程限定TA」は併用可能です(TAは後輩の指導を行うものです。)。二つの制度で年間総額50万円支給されます。また、宇宙研RAとも併用可能です。

日本学術振興会特別研究員

通称「学振」と呼ばれる制度です(詳しくはこちら)。これは博士課程の学生が月給20万円と研究費を100万円/年程度もらえる制度ですが、レベルが高く採択されるのが難しいです。研究内容だけでなく自己PRや研究の将来の展望も書く必要があり、ハードルが高いです。修士2年の5月に応募締め切りなので、修士1年の頃から論文を書いたり学会に沢山でておくことをオススメします。

国際卓越大学院教育プログラム

修博一貫のプログラムです(詳しくはこちら)。月17~18万円もらうことができます。2018年度からスタートした新しい制度です。

このように、色々とお金をもらえる手段はあります。一人暮らしの学生の中には、地方出身者のための奨学金制度(半額支給)を使っている人もいます。また、これは個人的な意見ですが大学院修了後に就職を考えている場合はお金を貯めておいたほうがいいです。

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入学前にやっておくべきこと

基礎的知識

物理学

大学の学部で学んだ力学、電磁気学、熱・統計力学、量子力学、特殊・一般相対論などの基礎を復習しておきましょう。宇宙物理学はこれら基礎物理の応用です。ここに挙げた基礎物理に加え、流体力学や物性物理学の知識が急に必要になることがしばしばあるので、学部の勉強は広くやっておきましょう。宇宙志望だから物性は関係ないやと油断していたら、後でキッテルの固体物理学入門を勉強し直すハメになるかもしれません。我々が扱っている検出器の冷却には超流動ヘリウムを、検出器は超伝導-常電導遷移を利用しているのです。

天文学

海老沢研への進学を考えている大学生の中には、天文学の授業を受けたことのない学生もいると思いますが、それでも大丈夫です(むしろ、物理の勉強をしておいたほうがいいです)。時間があるようでしたら 海老沢先生が東大大学院の講義で使用したノートを参考にしてX線天文学の基礎を勉強しておくと、研究を進める上で役に立つと思います。

数学

学部初年度の知識で十分です。特に役に立つのが、フーリエ解析や確率・統計です。また、天文学では大規模データを扱うことが多いので、今後はデータサイエンス(機械学習)の観点が重要になっていくでしょう。

コンピュータスキル

研究を始めるうえで必要な一般的なコンピュータスキルを以下に挙げます。自分の手持ちのパソコンで試せます。これらを習得していると、入学後すぐに研究に従事することができるでしょう。
  • UNIX のコマンド ... Linux でも Mac OS X でも Windows 10 (WSL) でもできます。
  • エディター ... Emacs などでテキストを編集します。
  • シェルスクリプト ... zsh, bash などを使ったバッチ処理のこと。
  • 簡単なプログラミング ... Python でオブジェクト指向技法や開発環境(Jupyter LabVisual Studio Code など)に慣れておくと良いでしょう。
  • データの表示 ... Python, gnuplot などでグラフを書きます。
  • LaTeX ... 論文や報告書を作成します。
  • Microsoft Office ... プレゼンや研究会のポスター作成に PowerPoint を使います。Word, Excel はあまり使いません。
  • slack, zoom ... コロナ時代に必須となった、リモートで研究相談をするツールたち。

英語

英語論文の読み書きは大学院生にとって必須スキルなので、慣れておいてください。また国際学会での発表や、海外の研究者との共同研究で英語を話す機会も多くなるので、英会話の練習もしておくと良いかもしれません。

いっぱい遊ぶ

大学院生になると学部生の頃と比べ、忙しくなる人が多いです。同級生もどんどん社会人になっていくため遊ぶ機会が激減すると思います。学部生のうちにいっぱい遊び、旅行しておくことをお勧めします。

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