- Home page
- No.299 目次
- 宇宙科学最前線
- お知らせ
+ ISAS事情
- 科学衛星秘話
- 宇宙の○人
- 東奔西走
- いも焼酎
- 宇宙・夢・人
- 編集後記

- BackNumber

「すざく」100観測達成!
そして4月からは国際公募観測へ!


 2005年7月10日に打ち上げられたX線天文衛星「すざく」は,8月16日からX線天体の観測を開始しました。「すざく」は,0.3keV(キロ電子ボルト)から600keVと,2000倍もエネルギーの異なるX線を同時に高感度で観測できる世界唯一の天文台であり,その特徴を活かして宇宙の高エネルギー現象の正体を探ります。観測は順調に進んでおり,2006年1月31日現在で,74天体をターゲットとして,109の異なる空の領域を延べ154回観測しました。天体数よりも領域数や観測数が多いのは,望遠鏡の視野よりも大きな天体をいくつかに分けて観測したり,X線放射の時間変動を調べるために時間を置いて何度も見たりするからです。


「すざく」が見た銀河中心。図の幅は0.7度で約400光年に相当する。温度の異なる物質は異なる種類のX線を放射することを用いて,氷点下200度の低温ガス(a),1億度の超高温ガス(b),そして中間の1000万度の高温ガス(c)の分布を示す。村上弘志氏(ISAS/JAXA)および兵藤義明氏(京都大学)提供。

 これまでに「すざく」の行った観測とその成果の一例として,わが太陽系の所属する天の川銀河の中心が挙げられます。そこは単に太陽のような恒星が密集しているのみではありません。私たち日本のX線グループが,数億度の超高温のガスが高い密度で存在していることを発見し,しかも氷点下200度以下の酷寒ガスと共存していることを明らかにした特別な場所です。このような著しい不均一性をもたらしているものは何か? 銀河中心は,これらの特徴から,極限宇宙の「実験室」として重視されるようになった領域なのです。X線の放射が特別に強い領域の大きさはざっと1000光年四方,視野角にして2度と,「すざく」X線望遠鏡の視野サイズ0.3度よりもかなり大きいです。まずは最も興味深い銀河の中心とそのごく近傍を観測した結果をまとめたのが,左の3枚の図です。ほぼ一様に広がる超高温ガスと,その中に極低温ガスがくっきりと浮かび上がりました。このような高精度の分布図は初めてであり,まさに「すざく」の性能を極限まで追求した実験チームの勝利といえるでしょう。この美しい姿は実は想像を超える超高エネルギー活動の反映だと考えられており,その解明に向けた解析が精力的に進められています。

 科学観測を安定してできるようになり,検出器動作の評価と理解も着々と進む中,1月7日を締め切りとして,「すざく」の第1期国際公募観測の提案募集が行われました。「すざく」は世界に開かれた国際天文台であり,観測の公募開始は大きなマイルストーンといえます。アメリカからの応募が164件,ヨーロッパからの応募が51件,そして日本とアジアの国々からの応募が133件と,その数は合計348件にもなりました。競争倍率も激しく,三つの地域枠に応じて3倍から6倍にも達しています。「すざく」の精密分光系が失われた痛恨の事故の前にも同様の公募をしているのですが,そのときよりもむしろ競争は激しくなっており,広い帯域を見る新しい天文台としての「すざく」に,世界から大きな期待が寄せられていることが分かります。観測提案は委員による審査を経て3月までに選定を行い,4月からはいよいよ公募観測がスタートします。これまでの性能実証観測のデータ解析も進みつつあり,「すざく」の特徴を活かした新しい発見が期待されます。

(「すざく」チーム 文責・中澤 知洋) 


Return
Next

#
目次
#
第6回宇宙科学シンポジウム開催される
#
科学衛星秘話
#
Home page

ISASニュース No.299 (無断転載不可)