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2種類のソーラーセイル展開実験 クローバー型と扇子型ソーラーセイルは,太陽光を反射し,それを推力として利用する推進機関です。太陽光の力は微弱で,地球近傍で1m2当たりだいたい0.46mgです。そのためソーラーセイルで十分な推力を得るためには,薄くて軽い膜面を,非常に大きな面積に広げる必要があります。このような展開実験を行うには,地上では重力や大気の存在が邪魔となります。そのため,観測ロケットS-310-34号機を用いて,弾道軌道上でクローバー型と扇子型という2種類の膜面の展開実験を計画しています。なお,この膜面展開の技術は,ソーラーセイルだけでなく,大型の太陽電池パドルやサンシェードなどにも応用可能と考えています。
クローバー型セイルクローバー型セイルは,観測ロケット実験で最初に展開されるセイルです。膜はポリイミド製で,厚さ7.5μm,直径10m,学生たちの力で3週間かけて完成させました。クローバー型セイルの特徴は,その名の通り4つ葉のクローバーの形状をしていることで,すべての折り目が遠心力の作用する方向に対して大きな角度を成すように工夫されています。S-310観測ロケットによる展開実験では,この4つ葉のクローバーを,ロケットのスピンによる遠心力を利用して2段階で展開します。第1段階でまず十字形状に展開し,第2段階で最終形状になります。機構上の特徴としては,膜の展開がきれいに進むように,ロケットの本体に対して膜の根元がスピン方向のみに空転する機構が付いています。また一次・二次展開の動作をフライト中自動で行わせるために,展開まで膜を押さえておく保持機構と,それらを順次解放するシーケンス回路と独立電源を装備しました。今回の展開実験では,このクローバー型セイルの無重力高真空下での展開挙動を観察して,ソーラーセイル探査機のセイル膜設計に役立てようとしています。
扇子型セイル扇子型セイルは,観測ロケット実験で後に展開されるセイルです。基本的にはほぼ円形をしたセイルで,セイルを回転させて遠心力を利用して展開する構造になっています。セイルは,ペタルと呼ばれる扇形をした数個のパーツから構成されており,その扇形をちょうど扇子のように周方向に折り畳み,棒状になった膜面を円筒に巻き付けながら,隣り合うペタル同士を何個所かでつなげていくことで収納します。展開はこれとまったく逆の手順で行うことができ,観測ロケット実験では特に制御などなく一度に連続的に展開しますが,将来は展開速度を制御する機構を装備する予定です。写真は,地上実験で直径2mのセイルを空気中で展開したときの様子です。観測ロケットでは,これよりさらに大きい直径10mのセイルの展開実験を行い,より大型の膜面の展開挙動や,真空中での膜面振動の減衰の様子などを観察し,将来のセイルの設計に役立てる予定です。
(津田 雄一,竹内 伸介)
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可視光磁場望遠鏡完成,回折限界性能達成太陽観測衛星SOLAR-Bは,可視光〜X線にわたる広い波長範囲の観測により,太陽の光球面からコロナに至る磁場の活動現象を探るミッションです。2006年にM-Vロケットでの打上げが予定されています。その中心に置かれる可視光磁場望遠鏡(SOT)は,有効径50cmのグレゴリアン式反射望遠鏡で,吸収線の偏光観測から光球面の磁場強度を3次元で測定します。可視光では望遠鏡の空間分解能がその有効径で決まり,SOTでは最大0.2秒となります。これは太陽表面上の距離に焼き直すと140kmに相当します。SOLAR-Bでは,この望遠鏡を太陽同期極軌道に上げることにより,空気のゆらぎに邪魔されることなく,望遠鏡の持つ最大限の性能での連続観測を行います。日本はSOTの望遠鏡部分(OTA)の製作を担当しており,これまで国立天文台にて日夜,組立,性能評価が続けられてきました。 写真は,ついに完成したOTAです。真空チャンバを用いた熱“光”学試験における重力の影響をキャンセルした測定から,目標とする回折限界に到達していることが確認されました。現在,米国製の焦点面パッケージ(FPP)と組み合わせ,実太陽光による観測試験が行われています。このISASニュースが届くころ,SOTは宇宙研の飛翔体環境試験棟に進行中の衛星一次噛合せ試験に合流し,他の2つの望遠鏡とともにSOLAR-B衛星全体が姿を現す予定です。 (松崎 恵一)
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田中靖郎 宇宙科学研究所名誉教授,マッセイ賞受賞
7月18日からパリで開かれた第35回コスパー科学総会において,宇宙科学研究所名誉教授の田中靖郎先生が,マッセイ賞を受賞されました。マッセイ賞は,コスパー(COSPAR;宇宙空間研究委員会)とイギリス王立協会(Royal Society)が合同で,宇宙空間研究の発展に顕著な貢献を果たした研究者に,特にその指導的役割を重視して贈られるもので,コスパーの最高の賞の一つです。 今回の田中先生の受賞理由としては,3つの功績が挙げられています。第一は,実験物理学者としてのX線検出器の開発と,それらを用いた数々のロケット・衛星実験です。特に,1970年代に開発したガス蛍光比例計数管は,「ひのとり」「てんま」に搭載され(その後,撮像型に発展したものは「あすか」にも搭載されました),X線観測における分光観測の重要性を示しました。第二は,それらのロケット・衛星実験を通じて切り開いてきた宇宙の高温ガスの研究です。太陽系を取り巻く熱いガスの存在や,ブラックホールを取り巻く円盤の存在の観測的証拠の発見が,特に顕著な業績として指摘されています。そして第三は,国際協力への貢献です。田中先生は,「ぎんが」「ようこう」「あすか」といった日本の天文衛星にその時々の世界最先端のX線観測装置を国際協力により導入し,それらの衛星の世界的な大活躍に大きな貢献をされました。 今回の受賞は,田中先生のご指導を受けてきた日本のX線天文学グループの一員として,大変うれしいニュースでした。
(井上 一,満田 和久)
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