No.281
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ISASニュース 2004.8 No.281 |
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第11回水星とプラズマ波動京都大学生存圏研究所 小 嶋 浩 嗣
図1を見てください。これは,水星周辺の環境とそれに基づいて予想されるプラズマ波動について,代表的なものをまとめたものです。例えば,水星の昼間側から太陽風などにより「たたき出されたイオン」が,太陽風にPickupされると,そこに大振幅のプラズマ波動(アルフヴェン波)が励起されるでしょう。また,やはり昼間側表面にたまった光電子の雲が,太陽風と相互作用すると,そこに電流が流れてやはり大振幅の静電波が励起されるかもしれません。夜側では,期待されているサブストームに関連した高エネルギー粒子により,非線形領域にまで十分発展したプラズマ波動が励起される可能性があります。また,その高エネルギー粒子が水星極域に注ぎ込むと,そこでまた強いプラズマ波動(電波)が放射されるかもしれません。その他,さまざまな水星固有のプラズマ波動現象を期待することができます。 工学部出身の私としては,このあたり「物理」というのはすごいな,と思ってしまうのです。つまり,「条件を変えてやって」,「宇宙に普遍の法則」を当てはめることで,「遠い世界の結果」が予想できてしまう。
“初めて”の醍醐味でも,「きっとそれだけではない」ことも,やはり私たちは知っています。それは,今までの宇宙観測の歴史を見ても明らかなように,実際に「その場」へ行って観測することで,「予想もしていなかった事実」,「ちょっとすぐには説明がつかない現象」を,目の当たりにするということはよくあることですし,また,それを期待して未知の領域へ科学衛星を送って探査するのでしょう。その意味で,水星周辺でのプラズマ波動は,「いまだ人類の誰もが目にしたことがない」現象です。その現象を明らかにすべく,私たちは水星探査計画BepiColombo(ベピコロンボ)に,プラズマ波動観測器を日欧の共同チームで提案しました。BepiColomboより先行していく米国のMessenger衛星にもプラズマ波動観測器は搭載されていませんので,うまくいけばBepiColomboは初めて水星周辺のプラズマ波動現象をとらえる衛星となります。「誰も見たことがない,調べたことがない」ものを初めて調べるという醍醐味は,研究者にとっては非常に大きなmotivationの一つであると思います。 水星に相当するHermesの神は,ギリシャ神話では非常に利口ですばしこい神様のようです。BepiColomboが水星に到着するのはまだまだ先ですが,この利発な神様のしっぽを何とかつかんで,そのベールの中の素顔を垣間見るくらいのことはしてみたいものです。
(こじま・ひろつぐ) |
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