No.281
2004.8

ISASニュース 2004.8 No.281

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アンダルシアのフライパン 

宇宙探査工学研究系 久 保 田 孝  


 6月28日から7月1日にかけて,世界自動化国際会議(WAC)に出席するため,スペインのセビーリャに行ってきました。セビーリャは,首都マドリッドの西南に位置し,高速列車AVE2時間30分のところにあります。スペインといえば,灼熱の太陽・闘牛・フラメンコ・白壁の家・情熱の国などをイメージしますが,ここアンダルシア地方は,まさにそのイメージが現実のものになる所です。


夏の熱い会議

 WACは自動化に関する国際会議で,ヨーロッパを中心に隔年で開催されています。国際自動制御連盟学術会議(IFAC)や電気電子学会(IEEE)でも自動化に関する会議がありますが,本会議はつのシンポジウムから構成されており,ロボティクス,知的自動制御,マルチメディア,ソフトコンピューティング,製造工場の自動化など,日ごろ交流の少ない分野の研究者が一堂に集まり,自動化をテーマに意見交換を行うユニークな会議です。

 今回は,惑星探査ロボティクスに関する特別セッションでの講演を頼まれ,出席しました。NASAの火星探査ローバをはじめ,空中を移動するAerial Robot,自動プログラミング,自律検証アルゴリズムなどの講演があり,さまざまな研究者と交流を持つことができました。ヨーロッパでの開催でしたが,欧米以外にアジア各国,メキシコ,ブラジル,イラン,イスラエル,エジプト,オーストラリアなど世界40カ国以上からの参加がありました。

 また,パネルディスカッションでは,「人間は火星に行くべきか」というテーマで,さまざまな意見が熱く語られました。有人探査について,大航海時代,ベスプッチがここセビーリャ港から出帆し,コロンブスが到達したのはインドではなく新世界であることを証明したという例を挙げながら,その意義の是非について議論をする人もいて,討論が盛り上がりました。

 さて,午後のキーノートスピーチでセビーリャ大学のAracil教授が非線形制御の講演をしているときに,突然停電になりました。ところが,会場がざわめく中,教授は何事も起きなかったかのようにそのまま話を続けています。真っ暗な会場で,この式を変形するとなどと言われても分からないのですが,中断する気配はありません。そうこうするうちに,大きな紙が持ち込まれ,マジックで数式を書き始めました。懐中電灯で照らしながらの講演を聴くのは初めてです。

 停電は2時間以上も続きました。停電の原因は,あまりの暑さで冷房の稼働率が上がり,会場地区の電力が不足したとのこと。その日の最高気温はなんと摂氏49度に達したそうです。自家発電で廊下の非常灯はつきましたが,エレベータは動かず,みんな階段で移動しました。すれ違う人同士が「Good Exerciseね」と笑顔で言葉を交わし,停電を楽しんでいるかのようで,とても印象的でした。


シエスタ

 セビーリャは,福島県の会津若松と同じ緯度ですが,夏には40度以上の暑さになることがあり,「アンダルシアのフライパン」と呼ばれているそうです。湿度は低いのですが,こうなるとやはり暑く,昼食を食べに外に出たときは熱した空気に包まれ,まるでオーブンの中にいるような感じでした。日影にいても太陽の照り返しが強く,熱射病になりそうでした。かつてない猛暑を体験し,輻射の威力を肌で感じました。熱設計の重要さを身をもって痛感した次第です。学会会期中は,天候に恵まれたというか,夕方9時でも気温は40度以上でした。セビーリャの人は,日差しの強い日中に休息をとり,午前中と夕方に活動するそうです。シエスタがスペイン人に重要であることがよく分かりました。暑さのため体が欲するのでしょう,冷たいスープのガスパチョがおいしいこと

 スペインの夕食が遅いことは有名で,レストランも午後8時からオープンします。学会のバンケットも遅くから始まりました。午後7時集合,バスに揺られること1時間。途中,ひまわり畑のきれいなこと。写真で見たようなひまわり畑が延々と続き,スペインらしい風景を満喫しながら,Arenales Bull Ranchに到着しました。ここは闘牛用の牛を養成するところで,早速,闘牛のデモンストレーションを見せてくれました。そして歓迎のフラメンコ。いつになったら食事にありつけるのだろうかと思いつつ,スペイン音楽の陽気さに空腹を忘れました。2時間たっぷりの食事を堪能した後は,スピーチ,そしてフラメンコショー,まだまだ会議が続きます。最後は参加者も踊りに加わり,ホテルに戻ったのは夜中の1時すぎでした。翌日も予定通り午前8時30分から午後7時まで講演がありましたが,会議にもシエスタが欲しいところです。

 1年中好天に恵まれた気候,アンダルシア地方の風景,そして明るく陽気なセビーリャでの会議は,流れる時間がいつもと違い,ゆったりと時を過ごすことができました。日本でもこのような時間を持ちたいものです。

(くぼた・たかし) 

歓迎のフラメンコ 


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